歴史上の偉人だけで会社を作ったら ~資金調達編・完結編~

前回までの偉人株式会社

歴史上の偉人7人が設立した「偉人株式会社」。

トーマス・エジソン率いる「発明株式会社」との共同研究によって、AIを活用した体験型研修カプセルの試作品が完成しました。

市場調査では150社から回答を集め、そのうち5社が条件次第で有料導入を検討したいと回答。

販売価格は1台500万円、製造原価は約200万円。初年度10台、3年目には年間50台の販売を目指す計画もできました。

しかし、商品化までの開発費は約1億7,950万円。

販売するための準備にも、多額のお金が必要です。

そして、銀行から融資を受けるためには、まだ大切な数字が残っていました。

「借りたお金を、本当に返せるのか」

いよいよ徳川家康たちは、返済計画の作成に挑みます。

偉人株式会社の7人

徳川家康|COO(最高執行責任者)
決まった方針を実行に移し、会社を動かす。

劉邦|CEO(最高経営責任者)
会社全体の方向を決め、最終判断をする。

諸葛亮|CSO(最高戦略責任者)
市場や競争を分析し、会社がどこでどう戦うかを考える。

豊臣秀吉|営業責任者
商品を売り、顧客を増やす。

坂本龍馬|事業開発・提携責任者
新しい事業を探し、社外の企業や人とつなぐ。

ガリレオ・ガリレイ|商品開発・研究開発(R&D)責任者
アイデアを形にし、技術や品質を検証する。

クレオパトラ|CMO(最高マーケティング責任者)
顧客が何を求めているのかを考え、商品の価値をどう届けるかを設計する。

返済計画をつくろう

偉人株式会社の会議室。

徳川家康は、これまでに集めた資料を机に並べていた。

家康「ようやく、銀行に説明するための数字がそろってきました」

秀吉「試作品も完成した! 買ってくれそうな企業も見つかった! 今度こそ大丈夫だろう!」

諸葛亮「まだです」

秀吉「またか!」

諸葛亮「肝心の返済計画がありません」

家康「まず、必要な資金を整理しましょう」

家康は、ホワイトボードに数字を書いた。

資金計画金額
商品化までの開発費(試作品を含む)1億7,950万円
その他の事業準備・運転資金7,000万円
必要資金の合計2億4,950万円
7人の出資金7,000万円
不足する資金1億7,950万円

家康「試作品の開発によって、当初より必要資金を550万円減らせる見込みです」

劉邦「それでも、約1億8,000万円か」

秀吉「大きな金額だが、3年目には本体だけで2億5,000万円売る計画なんだろう? 返せるじゃないか!」

諸葛亮「売上と、返済に使えるお金は違います」

秀吉「うっ……」

諸葛亮「カプセルを製造する費用も、人件費も、AIの運用費も必要です。売上のすべてを返済に回すことはできません」

家康「それに、借りたお金には金利がかかります」

秀吉「そうだった! いったい、どれくらいかかるんだ?」

家康「そこも含めて、銀行と相談する必要があります」

龍馬「金を借りるだけでも、考えることが山ほどあるんじゃな」

家康「ええ。そして、借りる前に考えておくべきことがあります」

家康は、ホワイトボードにもう一つ書き加えた。

「計画どおりに売れなかったら?」

金利が1%上がると、どうなる?

数日後。

家康は、銀行に持ち込む返済計画のたたき台をまとめていた。

秀吉「ところで家康。金利というのは、できるだけ安ければいいんだよな?」

家康「基本的にはそうですが、金利の種類にも注意が必要です」

秀吉「種類?」

家康「例えば、固定金利と変動金利です」

秀吉「どっちが得なんだ?」

家康「固定金利は、決められた期間の金利が変わらない方式です。一方、変動金利は、市場の金利などに応じて途中で変わる可能性があります」

秀吉「だったら、最初に安い方を選べばいいじゃないか!」

諸葛亮「途中で金利が上がったら、どうしますか?」

秀吉「……上がるのか?」

諸葛亮「上がることも、下がることもあります」

家康「仮に、次のような条件を提示されたと考えてみましょう」

比較例固定金利変動金利
当初の年利3.0%2.5%
将来の金利約定した固定期間中は変わらない上昇・低下する可能性がある

※金利は物語上の仮定です。実際の融資条件を示すものではありません。

秀吉「ほら! 変動金利の方が安いじゃないか!」

家康「では、変動金利が1%上昇したらどうなるでしょう?」

秀吉「1%くらい、大したことないだろう?」

家康「借入額が1億7,950万円の場合、借入残高が変わらないと仮定すると、年利が1%上がるだけで、年間の利息は約180万円増えます」

秀吉「180万円!?」

家康「正確には179万5,000円です」

秀吉「1%でそんなに違うのか!」

諸葛亮「借入額が大きいほど、小さな金利の変化も無視できなくなります」

家康「例えば、元金を返済せず利息だけを支払う期間なら、こうなります」

金利年間利息
年2.5%約449万円
年3.0%約539万円
年3.5%約628万円

※借入残高1億7,950万円が1年間変わらない場合の概算。元金返済が始まれば、残高に応じて利息は変わります。

秀吉「最初の金利だけ見て決めるのは危ないんだな……」

龍馬「安さを取るか、先の見通しを取りやすくするか。悩ましいところじゃな」

家康「そうですね。私たちは、開発にも販売にも不確実な部分があります。金利まで大きく変動するのは、できれば避けたいところです」

劉邦「なら、固定金利を軸に交渉しよう」

諸葛亮「ただし、金利だけではありません。返済をいつ始めるかも重要です」

家康「商品化にはまだ時間がかかります。最初から多額の元金返済が始まれば、開発資金が足りなくなる可能性があります」

劉邦「それなら、商品が売れ始めるまで返済を待ってもらえないのか?」

家康「元金の返済を一定期間待ってもらう『据置期間』という方法があります。ただし、その間も通常は利息を支払います」

秀吉「なるほど。銀行から借りるにも、返し方を相談できるわけだな!」

家康「ええ。ただし、銀行が認めてくれるかどうかは別の話です」

もし、半分しか売れなかったら?

返済計画をまとめていた諸葛亮が、突然、販売計画の数字を書き換えた。

秀吉「おい! 何をしてるんだ!」

諸葛亮「売上が計画どおりに進まなかった場合を考えています」

秀吉「そんな縁起でもないことを!」

諸葛亮「では、初年度10台の販売計画が、5台にとどまったらどうなりますか?」

秀吉「5台……?」

諸葛亮は、表を示した。

初年度の比較計画どおり半分しか売れない場合
販売台数10台5台
本体売上5,000万円2,500万円
販売した分の製造原価2,000万円1,000万円
売上と製造原価の差額3,000万円1,500万円

諸葛亮「販売した分だけを比較しても、差額は1,500万円減ります」

秀吉「半分売れないだけで、そんなに……」

家康「しかも、社員の給料や事務所の費用は、売上が半分になっても半分になるとは限りません」

諸葛亮「さらに、10台売れるつもりで先に10台製造していたらどうでしょう?」

秀吉「製造費は2,000万円かかるな」

諸葛亮「ところが、売れたのは5台。入金される本体代金は2,500万円です。残り5台は在庫になります」

家康「その在庫が売れるまでは、製造に使ったお金の一部が戻ってきません」

秀吉「なるほど……。売れ残った商品にも、お金がかかっているんだな」

龍馬「なら、注文が決まってからつくればええんじゃないか?」

ガリレオ「それも方法だ。ただし、製造には時間がかかる。注文を受けてから何カ月も待たせれば、契約を逃す可能性もある」

クレオパトラ「導入を検討している企業には、納期も確認しておく必要があるわね」

家康「そこで、最初から大量に製造するのではなく、受注状況に合わせて製造台数を調整したいと考えています」

諸葛亮「さらに、販売が遅れた場合は、広告費や採用計画など、支出の時期も見直します」

劉邦「売れなかったときのことまで考えておくのか」

家康「会社を守るためです」

秀吉「よし! だったら俺が必ず10台売ってやる!」

諸葛亮「その意気込みは結構ですが、売れなかった場合の計画も必要です」

秀吉「お前は本当に厳しいな!」

一同に笑いが起きた。

しかし、劉邦はホワイトボードを見つめたままだった。

劉邦「……でも、分かった気がする」

家康「何がでしょう?」

劉邦「計画を立てるっていうのは、うまくいく未来を想像するだけじゃないんだな」

諸葛亮「そのとおりです」

劉邦「うまくいかなかったときにも、会社を続けられる方法を考えておく。それが経営者の仕事なんだな」

家康は、静かにうなずいた。

再び、渋沢銀行へ

数日後。

徳川家康と劉邦、諸葛亮は、再び渋沢銀行を訪れた。

会議室には、前回と同じ銀行員が座っていた。

栄 一(さかえ・はじめ)。

栄「お久しぶりです。前回は、事業計画をもう少し具体的にしていただきたいとお伝えしました」

家康「はい。本日は、その結果をご説明に参りました」

家康は、資料を机に並べた。

試作品3台の開発実績。

商品化までの開発費の見積もり。

150社への市場調査。

販売価格と製造原価。

3年間の販売計画。

そして、資金繰りと返済計画。

栄は、一つひとつの資料に目を通した。

栄「試作品が完成したのですね」

家康「はい。3台を接続し、複数人が同じ仮想空間で研修できることを確認しました」

栄「販売価格は500万円。初年度10台、3年目には50台を目指す、と」

諸葛亮「はい。ただし、まだ確定した受注はありません。試作品の体験を希望している企業への提案を進める予定です」

栄「その点を正直に説明していただけるのは、ありがたいです」

栄は資料をめくり、あるページで手を止めた。

栄「それでは、返済について伺います」

家康「はい」

栄「今回の希望借入額は、1億7,950万円ですね」

家康「そのとおりです」

栄「例えば、元金返済を3年間据え置き、その後7年間で均等に返済すると仮定します」

栄は、電卓を取り出した。

栄「据置期間が終われば、元金だけで年間約2,564万円の返済が必要です。これに利息も加わります」

劉邦「年間2,500万円以上……」

栄「御社は3年目に50台を販売する計画ですが、4年目以降も売上を維持できる保証はありません。返済を続けるための現金を、どう確保しますか?」

家康「本体販売に加え、基本利用料による継続収益を積み上げます。また、販売台数が増えるほど、既存の導入企業からの収入も増える設計です」

栄「その点は理解できます。ただし、継続収益だけで返済できる規模には、まだ達していませんね」

諸葛亮「はい。ですから、返済開始後も本体販売による収入が必要です。今回の資料には、4年目以降の販売継続を前提とした資金計画と、売上未達時の対応も盛り込んでいます」

栄「拝見しました」

栄は、しばらく黙って資料を読んでいた。

やがて、顔を上げた。

栄「もう一つ、確認させてください」

家康「何でしょうか」

栄「もし、販売計画が半分しか達成できなかったら?」

劉邦は、思わず諸葛亮を見た。

諸葛亮は、静かにうなずいた。

家康「その場合は、製造台数を受注状況に合わせて調整します。開発や採用に関する支出も、優先順位を見直します」

栄「それでも資金が不足した場合は?」

家康「手元資金の残高を確認し、必要であれば追加の資金調達も検討します。ただし、それを前提に無理な販売計画を進めるつもりはありません」

栄「なるほど」

家康「今回、私たちは銀行からお金を借りることだけを目指しているのではありません」

栄「と、おっしゃいますと?」

家康「借りたお金を返しながら、会社を続けていけるか。そこまで考える必要があると分かりました」

栄は、ゆっくりと資料を閉じた。

栄「前回とは、ずいぶん違いますね」

栄 一が提示した条件

数日後。

偉人株式会社に、渋沢銀行から連絡が入った。

家康、劉邦、諸葛亮の3人は、再び銀行を訪れた。

栄「本日は、融資について当行の判断をお伝えします」

劉邦「お願いします」

栄「結論から申し上げます」

家康は、背筋を伸ばした。

栄「ご希望の1億7,950万円について、条件付きで融資を進める方針となりました」

劉邦「本当ですか!」

栄「ただし、全額を一度にお貸しするわけではありません」

家康「といいますと?」

栄「開発の進捗に応じて、融資を段階的に実行する方法を考えています」

栄は、資料を差し出した。

融資の枠組み(物語上の条件案)金額
第1段階:商品化開発のための融資1億円
第2段階:開発・販売準備の進捗に応じた追加融資7,950万円
融資予定額の合計1億7,950万円

栄「第1段階では、開発契約や資金使途、資金繰り計画などを確認します」

家康「はい」

栄「第2段階については、開発の進捗に加えて、試作品を体験した企業からの反応や、受注の見通しを改めて確認させてください」

諸葛亮「条件を満たせなければ、追加融資は実行されないということですね」

栄「そのとおりです。今回の判断は、何があっても全額をお貸しするという約束ではありません」

劉邦「なるほど……」

栄「さらに、金利と返済期間についても条件があります」

家康「お願いします」

栄「今回の計画では、商品化まで時間がかかります。そのため、当初3年間は元金返済を据え置き、その後7年間で返済する案を検討しています」

家康「固定金利での契約は可能でしょうか?」

栄「固定金利を希望されることは承知しています。具体的な利率は、契約時の条件や審査結果を踏まえて決めることになります」

家康「分かりました」

栄「そして、最も重要なのは、開発が進むたびに計画を見直すことです。販売の見通しが悪化した場合には、早い段階でご相談いただきたい」

家康「承知しました」

栄「融資の実行には、正式な契約と各段階の条件確認が必要です。それでも、御社の事業を前に進めるために、当行として協力したいと考えています」

劉邦「ありがとうございます!」

栄「ただ、一つだけ覚えておいてください」

劉邦「何でしょう?」

栄「銀行から借りられるお金は、会社が自由に使ってよいお金ではありません。将来、返さなければならないお金です」

家康「はい。その責任を忘れずに進めます」

栄は、小さく笑った。

栄「最初にお越しいただいたとき、皆さんには大きな夢がありました。しかし、その夢を実現するための数字がありませんでした」

家康「はい」

栄「今回は違います。商品をつくるための費用、売上の見通し、そして計画が外れた場合の対応まで考えていらっしゃる」

栄は、家康に向かって手を差し出した。

栄「これからが、本当の経営ですね」

家康「はい。どうぞ、よろしくお願いいたします」

2人は、固く握手を交わした。

資金調達編、完結!

偉人株式会社の会議室。

銀行から戻った家康が、全員に結果を報告した。

家康「渋沢銀行から、条件付きで融資を進めていただけることになりました」

秀吉「やったー! ついに1億8,000万円だ!」

諸葛亮「まだ全額が入金されたわけではありません」

秀吉「分かってるよ! 少しくらい喜ばせてくれ!」

龍馬「それでも、大きな一歩じゃな!」

クレオパトラ「次は、体験を希望している企業に試作品を見てもらわないとね」

ガリレオ「こちらも、エジソンと商品化に向けた開発を進める。まだ改良するところは山ほどあるからな」

劉邦「よし! いよいよ本格的に動き出すぞ!」

家康「ただし、資金繰りの確認は毎月行いましょう。開発費も、販売の見通しも、計画からずれる可能性があります」

秀吉「せっかく融資の話がまとまったのに、まだ数字の話か!」

家康「会社を続ける限り、数字の話は終わりませんよ」

秀吉「うへぇ……!」

再び、会議室に笑いが起きた。

最初に銀行を訪れたとき、偉人株式会社にあったのは、大きな夢と必要資金の見積もりだけだった。

しかし、試作品をつくり、市場を調べ、販売計画を立てるうちに、家康たちは少しずつ経営の現実を知っていった。

売上が増えても、利益が残るとは限らない。

利益が出ても、手元に現金があるとは限らない。

そして、借りられるお金が増えるほど、返済する責任も大きくなる。

銀行を納得させるためにつくり始めた事業計画は、いつの間にか、自分たちの会社を守るための計画になっていた。

劉邦は、会議室に並ぶ仲間たちを見渡した。

劉邦「さて、次は何をする?」

ガリレオ「決まっている。試作品を、本当に売れる商品にするんだ」

クレオパトラ「そして、お客様に使ってもらうのよ」

秀吉「よし! 今度こそ俺の出番だな!」

諸葛亮「売る前に、まずは商品の完成です」

秀吉「また待つのか!」

劉邦「ははは! いいじゃないか。ここまで来たんだ。全員で完成させよう!」

こうして偉人株式会社は、資金調達という最初の大きな壁を乗り越えた。

ただし、銀行との約束を果たすためには、開発を進め、実際の注文につなげなければならない。

夢を語る時間は終わった。

次は、その夢を商品にする番だ。


資金調達編・完結

次回、商品化編へ。


※本記事は歴史上の人物を登場させたフィクションです。偉人株式会社、発明株式会社、渋沢銀行および登場人物の企業活動は架空の設定です。

※開発費、販売計画、金利、融資額、返済期間、銀行の審査結果などは、物語上の仮定です。実際の融資条件や審査基準を示すものではありません。

※固定金利・変動金利の仕組み、据置期間、資金繰りなどは、一般的な金融・経営の考え方をもとにしています。実際の借入では、金融機関や契約内容によって条件が異なります。

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