前回までの偉人株式会社
「未来型成長支援ドック(仮)」の商品化を目指す歴史上の偉人7人。
しかし、商品を完成させるには、高度な技術が必要でした。
そこで坂本龍馬が動き、トーマス・エジソン率いる「発明株式会社」との共同研究に合意。
ついに商品開発への道が開けたと思った、そのとき。
徳川家康が、ある問題を指摘しました。
「では、その費用はどうやって支払うのですか?」
技術を一緒につくる相手は見つかった。
しかし、お金が増えたわけではありません。
今回、偉人株式会社が挑むのは――
資金調達です。
偉人株式会社の7人
今回の中心人物:徳川家康|COO(最高執行責任者)
決まった方針を実行に移し、会社を動かす。
劉邦|CEO(最高経営責任者)
会社全体の方向を決め、最終判断をする。
諸葛亮|CSO(最高戦略責任者)
市場や競争を分析し、会社がどこでどう戦うかを考える。
豊臣秀吉|営業責任者
商品を売り、顧客を増やす。
坂本龍馬|事業開発・提携責任者
新しい事業を探し、社外の企業や人とつなぐ。
ガリレオ・ガリレイ|商品開発・研究開発(R&D)責任者
アイデアを形にし、技術や品質を検証する。
クレオパトラ|CMO(最高マーケティング責任者)
顧客が何を求めているのかを考え、商品の価値をどう届けるかを設計する。
開発費だけでは、会社は動かない
「さて、どうする?」
劉邦が口を開きました。
「商品をつくる金が足りないんだろ?」
「はい。ただし、問題はそれだけではありません」
家康が一枚の紙を机に置きました。
「以前、ガリレオが試算した開発費は、最低1億8,500万円でした」
「そうだ。必要な技術を実現するための費用だ」
ガリレオが答えます。
「ですが、それだけでは会社を運営できません」
「どういうことだ?」
秀吉が首をかしげました。
「秀吉さんは、お給料はいらないのでしょうか? それは無論、助かります」
「いるに決まってるだろ!」
「商品を開発している間も、社員は働きます。そして事務所も必要です。完成後には営業活動も必要になるでしょう」
「……なるほど」
「そこで、商品を発売するまでに必要な資金を、改めて計算しました」
家康が資料を広げます。
偉人株式会社・必要資金の試算
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 商品開発・試作費 | 1億8,500万円 |
| 役員報酬・社会保険料等 | 4,800万円 |
| オフィス・設備費 | 600万円 |
| 営業・マーケティング費 | 600万円 |
| 運転資金・予備費 | 1,000万円 |
| 必要資金合計 | 2億5,500万円 |
| 出資金 | ▲7,000万円 |
| 不足資金 | 1億8,500万円 |
※発売までの約1年間を想定した概算です。開発費は第4話の試算を基にしており、共同研究の費用負担などによって変わる可能性があります。
「ちょっと待て」
秀吉が資料を二度見しました。
「最初は7,000万円あったんだよな?」
「はい」
「商品もまだないのに、1億8,500万円足りないのか?」
「そうなります」
「……会社って、金がかかるんだな」
「今さらですか」
諸葛亮が静かに言いました。
劉邦はしばらく数字を眺めていましたが、やがて家康に尋ねました。
「それで、どうする?」
「まずは、銀行に相談しましょう」
「銀行?」
「融資を受けるのです」
秀吉が顔を上げました。
「そうか! 借りればいいのか!」
「借りたお金は返さなければなりませんが」
「……そうだったな」
家康は資料をまとめました。
「まずは私が行ってまいります」
渋沢銀行の栄 一さん
数日後。
家康が訪れたのは、渋沢銀行。
案内された応接室で待っていると、一人の男性が入ってきました。
「お待たせしました」
男性は丁寧に頭を下げ、名刺を差し出します。
「融資担当の、栄 一(さかえ・はじめ)と申します」
家康は名刺を見つめました。
「……」
「どうかなさいましたか?」
「いえ。どこかで聞いたことのあるお名前だと思いまして」
「よく言われます」
「そうですか」
二人は向かい合って座りました。
「それでは徳川様。本日は、どのようなご相談でしょうか」
「新商品の開発と事業運営に必要な資金について、融資をお願いしたいと考えています」
「承知しました。まずは、御社の事業についてお聞かせください」
家康は、持参した資料を開きました。
自信のあるプレゼン
「私たちが開発するのは、『未来型成長支援ドック(仮)』というサービスです」
家康は説明を始めました。
一人ひとりに合わせた仮想世界で、現実では簡単に経験できない仕事上の出来事を体験する。
その中での会話や判断、行動をAIが分析し、仮想世界の出来事も変化させていく。
仕事での成長や、チームの力を高めることを支援するサービスです。
「なるほど。興味深いですね」
栄は資料に目を落としました。
「しかし、実現するには相当な技術が必要ではありませんか?」
「その点については、発明株式会社と共同研究を進めることになっています」
「発明株式会社?」
「トーマス・エジソン氏が代表を務める会社です」
「ほう、あのエジソンさんですね」
栄の表情が少し変わりました。
家康は続けます。
「市場調査も進めています。企業の人材育成に関する課題を調べ、商品として提供する方向性も検討してきました」
「開発期間は?」
「まずは約1年間を想定しています。ただし、技術的な検証の結果によって変わる可能性があります」
「必要な資金は?」
「こちらです」
家康は、先ほどの資金計画を差し出しました。
「必要資金は約2億5,500万円。現在の資本金は7,000万円です。不足する1億8,500万円について、融資をお願いしたいと考えています」
栄は資料をじっくり読みました。
「商品構想があり、開発計画もある。共同研究の相手も見つかっている」
「はい」
「ずいぶん準備されていますね」
「ありがとうございます」
家康は、少しだけ安心しました。
しかし――
栄は資料を机に置きました。
「では、ここからいくつか確認させてください」
「いくら売れるのですか?」
「まず、この商品はいくらで販売する予定ですか?」
「現在、価格については検討中です」
「そうですか。では、発売初年度は何社への販売を見込んでいますか?」
「営業活動を通じて、導入企業を増やしていく予定です」
「具体的には、何社でしょうか」
「……」
家康は資料をめくりました。
栄は続けます。
「企業の人材育成に需要があることは分かりました。しかし、そのうち何社が御社の商品を購入する見込みなのか、根拠はありますか?」
「それについては、今後さらに調査を進める予定です」
「なるほど」
栄はうなずきました。
「では、開発が予定より半年遅れた場合、資金は足りますか?」
「半年、ですか」
「はい。まだ実現できるかどうかを検証している技術ですよね」
「……そのとおりです」
「予定どおり発売できたとして、想定したほど売れなかった場合は?」
家康は答えられませんでした。
そして栄は、最後に尋ねました。
「徳川様。御社は、何を原資に融資を返済する予定ですか?」
「……商品の売上から、返済したいと考えています」
「それは分かります」
栄は穏やかに答えました。
「では、その売上がいつ、いくら発生し、経費を支払ったあとに、返済へ回せるお金はいくら残るのでしょうか?」
家康は、もう一度資料を見ました。
商品構想。
市場調査。
開発計画。
必要資金。
どれも準備してきたつもりでした。
しかし、栄が求める数字は、そこにはありませんでした。
融資を受けられない理由
しばらくの沈黙のあと、栄が口を開きました。
「徳川様。御社の商品には、可能性があると思います」
「ありがとうございます」
「ですが、商品の将来性と、銀行が融資できるかどうかは別の問題です」
家康は黙って聞いていました。
「銀行は、貸したお金を返していただく必要があります」
「はい」
「そのためには、商品が売れそうだという説明だけでは足りません」
栄は資料を閉じました。
「申し訳ありませんが、現時点の計画では、ご希望の融資をお引き受けできません」
家康は深く頭を下げました。
「承知しました」
「ただ、事業そのものを否定しているわけではありません」
栄は続けます。
「売上の見通しと、その根拠。開発が遅れた場合の対応。そして、返済までの資金の流れ」
「……」
「そこまで説明できる計画を、もう一度見せていただけませんか」
家康は顔を上げました。
「分かりました。改めて準備いたします」
こうして、偉人株式会社の最初の融資相談は、失敗に終わりました。
銀行は、お客様ではない
偉人株式会社に戻った家康は、ほかの6人を集めました。
「融資は受けられませんでした」
「なんだって!?」
秀吉が声を上げます。
「エジソンと組めるんだぞ? 商品だって面白いじゃないか!」
「その説明だけでは足りませんでした」
「なんでだよ」
「返せる根拠を示せなかったからです」
諸葛亮が腕を組みました。
「なるほど。商品の価値と、融資の判断は別ということですね」
「そういうことです」
クレオパトラが口を開きました。
「私たちは、商品を買ってくれるお客様に向けた説明は考えてきた。でも、銀行はお客様ではないのね」
「はい」
家康は答えました。
「商品が魅力的でも、それだけでお金を貸してもらえるわけではありません」
ガリレオが尋ねます。
「技術が完成するかどうかも、まだ分からない。それも問題か?」
「もちろんです。開発が遅れれば、売上が発生する時期も遅れます」
龍馬が笑いました。
「俺もこの前、相手が何を求めとるか分からずに失敗したばかりじゃ」
「今回は、私の番だったようです」
家康も小さく笑いました。
「で、どうする?」
劉邦が尋ねます。
家康は、机の上に資料を並べました。
「まず、商品をいくらで売るのか。何社に売れるのか。その根拠は何か」
「営業の出番だな!」
秀吉が身を乗り出します。
「市場の分析は、私たちで詰めましょう」
諸葛亮がクレオパトラを見ました。
「ええ。購入する企業の立場から、もう一度考えたいわ」
ガリレオも口を開きます。
「私は開発期間と費用を見直そう。予定どおりに進まなかった場合も考えておく」
「発明株式会社との役割分担も、俺が確認しておくぜよ」
龍馬が続きました。
家康は全員を見渡しました。
「皆さんにお願いしたいことがあります」
「何だ?」
劉邦が聞きます。
「これまで、私たちは商品をつくるための計画を立ててきました」
家康は、銀行に持参した資料を手に取りました。
「ですが、それだけでは足りません」
そして、静かに言いました。
「作り直しましょう」
「今度は、銀行がお金を貸せる事業計画を」
商品構想はある。
市場調査もした。
開発計画も、共同研究の相手もいる。
偉人株式会社は、銀行からお金を借りるために、商品の魅力を伝える準備をしてきました。
しかし、借りたお金をどう返すのか。
その具体的な計画が、抜け落ちていたのです。
偉人株式会社の次の挑戦は――
「この会社にお金を貸しても大丈夫だ」と、銀行に納得してもらうこと。
家康たちは、もう一度、渋沢銀行に挑みます。
第6-2話「資金調達編・後編」へ続く。
※本記事は、歴史上の人物の史実や現実の企業経営・金融実務を参考にしたフィクションです。登場人物の会話や「偉人株式会社」「発明株式会社」「渋沢銀行」、商品・サービス、融資交渉は架空のものです。「栄 一」も架空の人物です。
※本編の資金計画および融資判断は物語上の設定です。実際の融資では、事業計画、財務状況、資金使途、返済能力、融資制度などを踏まえて個別に審査されます。
参考・出典
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▶ 第5-1話|歴史上の偉人だけで会社を作ったら ~業務提携編・前編~
