歴史上の偉人だけで会社を作ったら ~業務提携編・前編~

前回までの偉人株式会社

歴史上の偉人7人が、それぞれ1,000万円を出資して生まれた「偉人株式会社」。

彼らが開発を目指しているのは、社員一人ひとりの可能性を最大限に引き出すサービス。

「未来型成長支援ドック(仮)」

AIを使った仮想世界で、その人に必要な経験を提供し、成長を支援するという構想です。

しかし、商品開発責任者のガリレオが作成した開発計画によって、大きな問題が明らかになりました。

開発費は、少なくとも1億8,500万円。

会社の資本金は7,000万円しかありません。

さらに、開発に必要な技術の一部は、自分たちだけでは完成の見通しが立っていませんでした。

そこで動き出したのが、事業開発・提携責任者の坂本龍馬です。

「俺たちにないものを持っている会社を探す。」

龍馬の提携先探しが始まります。


偉人株式会社の7人

今回の中心人物:坂本龍馬|事業開発・提携責任者
新しい事業を探し、社外の企業や人とつなぐ。

劉邦|CEO(最高経営責任者)
会社全体の方向を決め、最終判断をする。

徳川家康|COO(最高執行責任者)
決まった方針を実行に移し、会社を動かす。

諸葛亮|CSO(最高戦略責任者)
市場や競争を分析し、会社がどこでどう戦うかを考える。

豊臣秀吉|営業責任者
商品を売り、顧客を増やす。

ガリレオ・ガリレイ|商品開発・研究開発(R&D)責任者
アイデアを形にし、技術や品質を検証する。

クレオパトラ|CMO(最高マーケティング責任者)
顧客が何を求めているのかを考え、商品の価値をどう届けるかを設計する。


欲しい技術は、どこにある?

「ガリレオ、確認したいことがある。」

龍馬が開発計画書を机に置きました。

「俺たちだけじゃ作れない技術があると言っていたな。」

「ああ。」

「具体的には、何が足りない?」

ガリレオは開発計画書を開きました。

「会話を分析するAI。人間の判断や行動を記録する仕組み。複数人が同じ仮想世界で体験する技術。」

「それぞれは、すでに存在する技術を利用すれば開発を進められる。」

「じゃあ、何が問題なんだ?」

「それらを組み合わせた、その先だ。」

ガリレオは一つの図を指さしました。

例えば、3人の社員が仮想世界で会社を経営しているとします。

1人が新商品の発売を提案する。

もう1人が反対する。

残る1人は、すでに取引先との契約を進めている。

ここで、単に用意された選択肢から答えを選ばせるのではありません。

3人の会話や判断をAIがその場で理解し、次に起こる出来事そのものを変える。

発売を強行すれば、予想外のトラブルが発生するかもしれない。

発売を延期すれば、競合企業に先を越されるかもしれない。

そして、その後の3人の判断によって、さらに状況が変化していく。

「つまり、最初から決められた物語を体験するわけじゃないんだな。」

「そうだ。」

ガリレオはうなずきました。

「参加者の判断によって、世界が変わり続ける。」

「しかも、複数人の会話や行動を同時に理解しながらだ。」

「そこを実現する技術が、まだ我々にはない。」

龍馬は少し考えました。

「分かった。」

「じゃあ、その技術を持っている会社を探そう。」

提携先は、技術力だけで選ぶのか?

数日後。

龍馬は、調べてきた企業の資料を会議室に持ち込みました。

「候補は見つかった。」

秀吉が身を乗り出します。

「おお! もう見つけたのか!」

「ただし、問題がある。」

龍馬は資料を机に並べました。

技術力は高いが、自社の商品開発を優先している会社。

共同開発には積極的でも、偉人株式会社が必要とする技術にはまだ届いていない会社。

技術面では条件を満たしていても、将来的に競合になる可能性がある会社。

「どこも一長一短だな。」

家康が資料を見ながら言いました。

「技術力だけで決めるわけにはいきませんね。」

諸葛亮も口を開きます。

「重要なのは、技術を持っているかどうかだけではありません。」

「その技術を、我々が事業に利用できるかどうかです。」

「どういうことだ?」

秀吉が尋ねました。

「共同開発した結果、その技術を相手の許可なしには使えないとしたら?」

「……せっかく商品を作っても、自由に売れないな。」

「そういうことです。」

今度はクレオパトラが資料を手に取りました。

「それに、私たちが欲しいのは技術そのものではないわ。」

「企業の社員が、自分の可能性を引き出せる商品を作ることよ。」

「技術がどれほど優れていても、商品が完成しなければ意味がない。」

龍馬は資料の一枚を抜き出しました。

「その点も考えたうえで、最初に話をしたい会社がある。」

そこに書かれていたのは――。

知能株式会社。

「AIの父」が経営する会社

知能株式会社。

AIによる会話や判断の分析と、その結果に応じて仮想世界を変化させる技術を研究・開発している企業です。

その代表を務めるのが、

アラン・チューリング

「コンピュータ科学の父」「AIの父」とも呼ばれる人物。1950年には、機械の知能について考察した論文を発表。

「ここなら、我々が必要としている技術に近いものを持っている。」

ガリレオも資料を確認しました。

「確かに、これなら開発計画を前へ進められる可能性がある。」

龍馬は笑いました。

「よし。行ってくる。」

秀吉が声をかけます。

「向こうは、そう簡単に技術を出してくれないぞ。」

「分かってる。」

龍馬は資料を鞄に入れました。

「だから、技術をくださいとは言わない。」

龍馬、交渉へ

知能株式会社の会議室。

龍馬の向かいには、アラン・チューリングが座っていました。

「本日は、どのようなお話でしょうか。」

「御社と一緒に、新しい商品を作りたい。」

龍馬は、偉人株式会社の商品構想を説明しました。

社員一人ひとりの目標や特性に合わせて、仮想世界でさまざまな経験ができること。

個人だけでなく、チームでも体験できること。

体験中の判断や行動をAIが分析し、一人ひとりの成長を支援すること。

さらに、毎年利用することで、成長や変化も確認できること。

そして、ガリレオがまとめた開発計画書を提示しました。

「ここまでは、俺たちで設計している。」

「ただ、どうしても足りない技術がある。」

龍馬は資料の一部分を指さしました。

「複数人の会話や判断を、その場でAIが理解する。」

「そして、次に起こる出来事を変え続ける。」

「御社の技術を組み合わせれば、実現に近づけると考えています。」

チューリングは資料に目を通しました。

「なるほど。」

しばらくして、顔を上げました。

「興味深い構想ですね。」

龍馬の表情が少し明るくなります。

しかし、次の質問は予想していたものとは違いました。

「ところで、我々が御社と組むメリットは何でしょうか。」

こちらの価値は、相手にとっても価値なのか?

龍馬は、用意していた市場調査の資料を取り出しました。

「俺たちは、企業の人材育成に新しい市場を作ろうとしている。」

「従来の研修では経験できないことを、社員一人ひとりに合わせて体験させる。」

「御社の技術を使って、その市場へ一緒に進出したい。」

チューリングは資料を見ながら尋ねました。

「その市場には、すでに顧客がいるのですか?」

「企業の課題や既存の研修市場は調べている。ただ、この商品はまだ完成していない。」

「導入を約束している企業は?」

「まだない。」

「売上実績は?」

「ゼロだ。」

龍馬は隠しませんでした。

チューリングは、もう一度開発計画書を確認しました。

「御社の構想は面白いと思います。」

「ですが、この技術は我々の事業の中核です。」

「我々も、自社の研究開発を進めています。」

龍馬は答えます。

「だからこそ、新しい使い道を一緒に作りたい。」

「御社が持っていない商品構想を、俺たちは持っている。」

チューリングは首を横に振りました。

「その構想が、我々にとって必要だとは限りません。」

龍馬は黙りました。

「御社の商品を実現するために、我々の研究者や設備を投入する。」

「その間、自社の研究計画にも影響が出ます。」

「さらに、我々の競争力である技術を、どこまで提供するのかという問題もあります。」

チューリングは資料を閉じました。

「現時点では、御社と共同開発するメリットが、我々にはありません。」

龍馬は、もう一度だけ尋ねました。

「技術の利用範囲を限定しても、難しいか?」

「技術の提供方法だけの問題ではありません。」

「我々が、この事業に参加する理由が必要なのです。」

しばらく沈黙が続きました。

龍馬は資料を鞄に戻しました。

「分かった。」

そして立ち上がりました。

「今日は、ありがとう。」

交渉は、成立しませんでした。

坂本龍馬、手ぶらで帰る

偉人株式会社の会議室。

「どうだった?」

秀吉が、帰ってきた龍馬に尋ねました。

「ダメだった。」

「……お前でもダメなことがあるんだな。」

「あるよ。」

龍馬は椅子に座りました。

家康が尋ねます。

「理由は?」

「向こうには、俺たちと組む必要がなかった。」

龍馬は交渉の内容を説明しました。

自社の研究計画があること。

核心技術を社外へ提供するリスクがあること。

そして、偉人株式会社が提示した商品構想だけでは、そのリスクを引き受ける理由にならなかったこと。

「それは、もっともな話ですね。」

家康が言いました。

「我々も、資本金7,000万円の会社です。」

「相手に大きな負担を求める以上、それに見合うものを示さなければなりません。」

諸葛亮も続けました。

「相手が欲しいと思わないものは、交渉材料になりません。」

龍馬は、机の上に置いた資料を見つめました。

「俺たちには、商品構想がある。」

「市場も調べた。」

「ガリレオの開発計画だってある。」

「でも、向こうには響かなかった。」

クレオパトラが言いました。

「私たちの商品を欲しいと思う顧客がいるかどうかを調べたでしょう?」

「ああ。」

「提携先も同じじゃないかしら。」

「相手が何を欲しがっているのか、考えないと。」

龍馬は顔を上げました。

「……なるほどな。」

求めている技術を持っていない会社?

「だったら、次はどうする?」

劉邦が尋ねました。

龍馬は候補企業の資料を広げました。

「ほかにも、似た技術を研究している会社はある。」

「ただ、知能株式会社と同じ問題が起きるかもしれない。」

秀吉が口を開きます。

「じゃあ、条件のいい会社を探せばいいんじゃないか?」

「それも一つの方法だ。」

龍馬は資料を見ながら答えました。

「でも、もう一つ考えていることがある。」

「何だ?」

「俺たちは、最初から欲しい技術を持っている会社ばかり探していた。」

「当たり前だろ。技術が足りないんだから。」

秀吉が不思議そうに言います。

「そうなんだが……。」

龍馬はガリレオを見ました。

「なあ、ガリレオ。」

「何だ?」

「その技術は、今の俺たちには作れないんだよな?」

「正確には、我々だけでは完成の見通しが立たない。」

「じゃあ、開発設備も研究者も十分にいたら?」

ガリレオは少し考えました。

「それでも、完成する保証はない。」

「ただし、必要な研究を並行して進め、試作と検証を繰り返せるなら、可能性は広がる。」

龍馬は笑いました。

「そうか。」

「だったら――。」

「まだ技術を持っていなくても、俺たちと一緒に作れる会社を探せばいい。」

秀吉が首をかしげます。

「そんな会社があるのか?」

龍馬は、別の資料を取り出しました。

「一社、思い当たる。」

そこに書かれていたのは、

発明株式会社。

そして、その代表者の名前は――。

トーマス・エジソン。


次回――歴史上の偉人だけで会社を作ったら ~業務提携編・後編~

欲しい技術を持っている会社には、断られた。

次に龍馬が向かおうとしているのは、まだその技術を持っていない会社。

しかし、そこには圧倒的な研究開発力があります。

技術を持っていない会社と、なぜ提携するのか。

坂本龍馬、今度は発明王に会いに行きます。


※本記事は、歴史上の人物の史実や実在する技術・研究を参考にしたフィクションです。登場人物の会話や「偉人株式会社」「知能株式会社」「発明株式会社」、商品・サービスは架空のものです。


参考資料


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