「店は客のためにあり、店員とともに栄え、店主とともに滅びる」|柳井正さんを支える経営哲学

世界的な衣料品ブランドへと成長したユニクロ。

そのユニクロを育ててきたのが、ファーストリテイリングの柳井正さんです。

柳井さんといえば、常識にとらわれない経営や、厳しい経営姿勢を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

しかし、そんな柳井さんが長年大切にしてきた言葉は、意外なほどシンプルなものでした。

「店は客のためにあり、店員とともに栄え、店主とともに滅びる」

この言葉には、柳井さんが大切にしてきた経営の本質が隠されています。

「店は客のためにある」

柳井さんが最初に出会ったのは、「店は客のためにある」という言葉でした。

商業専門誌『商業界』を通じて知った、倉本長治さんの言葉です。


※倉本長治(くらもと・ちょうじ)
「日本商業の父」とも呼ばれる人物です。商業専門誌『商業界』の創刊に携わり、お客様を第一に考える商売の大切さを説きました。


商売をする以上、お客様を大切にする。

当たり前のことのように聞こえます。

しかし、売上や利益を追いかけるうちに、いつの間にかその当たり前を忘れてしまうこともあるのではないでしょうか。

どれほど会社が大きくなっても、店が存在する理由はお客様にある。

柳井さんは、この考え方を大切にしてきました。

しかし、この言葉には続きがありました。

「店員とともに栄え、店主とともに滅びる」

これが、柳井さんが後に知った言葉の続きです。

「店はお客様のためにある」

それだけでは、十分ではありません。

お客様に商品を届け、店への信頼を築いていくのは、現場で働く従業員です。

例えば、お客様から「こんな商品があればいいのに」という声があったとします。

その声を経営者に届けることで、新しい商品やサービスが生まれるかもしれません。

反対に、経営者がどれほどお客様を大切にしたいと考えていても、現場の接客が悪ければ、その思いは伝わりません。

店員は、お客様の声を経営者に届け、経営者の思いをお客様に届ける存在でもあるのです。

だからこそ、店は「店員とともに栄える」のです。

では、なぜ「店主とともに滅びる」のでしょうか。

どれほど繁盛している店でも、経営者が判断を誤れば、衰退してしまうことがあります。

売上が伸びたことで、お客様の声を聞かなくなる。

成功したことで、自分の判断が常に正しいと思い込む。

従業員の意見より、自分の考えを優先する。

こうした慢心が積み重なれば、いつかお客様も従業員も離れていくかもしれません。

つまり、店の将来を左右するのは、経営者自身の考え方や判断でもあるのです。

「お客様のため」とは、安く売ることなのか

2026年10月、ユニクロは一部商品の値上げを発表しました。

「店は客のためにある」という言葉を聞くと、できるだけ安く商品を提供することがお客様のためだと考える人もいるかもしれません。

もちろん、価格の安さは大切な価値の一つです。

しかし、安さだけがお客様のためになるのでしょうか。

品質を維持すること。

長く使える商品を届けること。

そして、従業員が安心して働ける環境を守ること。

こうしたことも、商売を続けるうえで大切です。

今回の値上げについて、ユニクロは原材料費や物流費の上昇、円安の影響を理由に挙げています。

もちろん、値上げすればよいという話ではありません。

価格が上がれば、購入をためらう人もいるでしょう。

だからこそ、企業には価格に見合う価値を届け続ける責任があります。

お客様に価値を届けながら、従業員も企業も成長し続けられること。

それが、柳井さんが大切にしている商売のあり方なのかもしれません。

「店は客のためにあり、店員とともに栄え、店主とともに滅びる」

ここまで紹介してきたこちらの言葉。

改めて一つにつなげてみます。

「店は客のためにあり、店員とともに栄え、店主とともに滅びる」

店は、お客様のために存在する。

そして、そのお客様と向き合う従業員によって繁栄する。

しかし、ここで特に注目したいのが、最後の一節です。

「店主とともに滅びる」

どれほどお客様に支持され、優秀な従業員に恵まれていても、経営者がお客様の声を無視したり、従業員を大切にしなくなったりすれば、店は衰退してしまうかもしれません。

反対に、お客様の声に耳を傾け、従業員が力を発揮できる環境をつくることができれば、店は成長を続けられるはずです。

お客様を大切にすること。

従業員を大切にすること。

そして、その二つを忘れずに経営判断を続けること。

柳井正さんが長年大切にしてきたこの言葉は、経営者が何を優先すべきかを教えてくれているように思います。

そして、これは経営者だけの話ではありません。

部下を持つ上司や、チームを率いるリーダーにも通じる考え方ではないでしょうか。

お客様を大切にする。従業員を大切にする。

言葉にすれば、当たり前のことです。

しかし、その当たり前を、成功しても、立場が変わっても、続けられるかどうか。

本当に難しいのは、そこなのかもしれません。

柳井正さんが長年大切にしてきたこの言葉は、そんな当たり前の大切さと難しさを、私たちに教えてくれているように思います。

以上
「一流の思考ラボ」編集長でした。

参考・出典

あわせて読みたい

▶「目標がその日その日を支配する」横浜高校・渡辺元智監督が遺した言葉

▶津田恒実さんが大切にした「弱気は最大の敵」|気の弱い少年が「炎のストッパー」になるまで