歴史上の偉人だけで会社を作ったら ~業務提携編・後編~

前回までの偉人株式会社

現実では簡単に経験できない仕事上の出来事を、一人ひとりに合わせた仮想世界で経験する。

そんな「未来型成長支援ドック(仮)」という商品でいくことは決まった偉人株式会社。

しかし、現状では開発資金も技術も足りません。

そこで坂本龍馬は、必要な技術を研究する「知能株式会社」との業務提携に挑みました。

しかし、代表のアラン・チューリングから返ってきたのは、

「なぜ、我々が御社と組む必要があるのですか?」

という問い。

自分たちにメリットがあるだけでは、提携は成立しない。

交渉に失敗した龍馬は、提携先の探し方そのものを変えます。

完成した技術を持つ会社ではなく、

「まだその技術を持っていなくても、一緒につくっていけそうな会社を探す」

そして、次の候補として名前を挙げたのが――

トーマス・エジソン率いる「発明株式会社」でした。

偉人株式会社の7人

今回の中心人物:坂本龍馬|事業開発・提携責任者
新しい事業を探し、社外の企業や人とつなぐ。

劉邦|CEO(最高経営責任者)
会社全体の方向を決め、最終判断をする。

徳川家康|COO(最高執行責任者)
決まった方針を実行に移し、会社を動かす。

諸葛亮|CSO(最高戦略責任者)
市場や競争を分析し、会社がどこでどう戦うかを考える。

豊臣秀吉|営業責任者
商品を売り、顧客を増やす。

ガリレオ・ガリレイ|商品開発・研究開発(R&D)責任者
アイデアを形にし、技術や品質を検証する。

クレオパトラ|CMO(最高マーケティング責任者)
顧客が何を求めているのかを考え、商品の価値をどう届けるかを設計する。

二度目の業務提携交渉

龍馬は、ガリレオを連れて「発明株式会社」を訪れました。

代表は――

トーマス・エジソン。


※トーマス・エジソン
数多くの発明や事業に関わった「発明王」として知られる人物です。
しかし、エジソンは一人だけで発明を続けていたわけではありません。
1876年には、ニュージャージー州メンロパークに研究施設を設立。
助手や技術者たちと研究開発を進めました。
その後、ウェストオレンジにはさらに大規模な研究施設をつくり、複数のチームでさまざまな研究開発を進められる体制を整えていきます。
エジソンは発明だけでなく、「発明する組織」をつくった人物でもありました。


「発明王」でもあり「発明する組織をつくった人物」

そんなエジソンに、龍馬は目をつけたのです。

会議室に入ると、エジソンが二人を迎えました。

「話は聞いている。面白いものをつくろうとしているらしいな」

龍馬は笑います。

「そうなんじゃ。ただ、俺たちだけじゃつくれん」

龍馬は、未来型成長支援ドックの構想を説明しました。

一人ひとりに合わせた仮想世界の中で、現実では簡単に経験できない出来事を経験する。

そこで何を考え、誰と話し、どんな判断をするのか。

AIがそれらを分析し、その結果に応じて、次に起きる出来事そのものを変えていく。

個人だけではなく、複数人が参加することもできる。

エジソンは黙って聞いていました。

やがて、一つの質問をします。

「それで?」

龍馬はエジソンを見ました。

「うちと組めば、それがつくれる」

「違う」

エジソンは言いました。

「なぜ、私たちが君たちと組む必要がある?」

龍馬は、一瞬だけ黙りました。

以前にも聞かれた問いでした。

チューリングとの交渉で、答えられなかった問いです。

しかし、今回は違います。

「御社には、研究者がおる。設備もある。技術を形にする力もある」

「そうだ」

「じゃが、新しい技術をつくっても、それを何に使うか、どんな商品にするかは別の話じゃろ?」

エジソンは黙っています。

発明株式会社もまた、優れた研究者と設備を持ちながら、次にどんな技術を生み出し、何を商品にするのかを模索していました。

龍馬は続けます。

「俺たちは、そこを持ってきた」

「誰に売るのか。どんな商品にするのか。市場も調べた。ガリレオは、必要な仕組みまで設計しとる」

龍馬は資料をエジソンの前に置きました。

「御社は、新しい技術に挑戦でき、それを商品にすることもできる。俺たちは、自分たちだけでは難しかった技術を形にして、商品開発を進められる。お互いに足りんものを補い合えると思わんか?」

エジソンは、龍馬ではなくガリレオを見ました。

「設計したのは君か?」

「そうだ」

ガリレオは資料を広げました。

参加者の会話。

判断。

行動。

それらをAIが分析し、仮想世界で次に発生する出来事を変える。

資料を眺めていたエジソンが聞きます。

「本当に、できるのか?」

ガリレオは答えました。

「分からない」

龍馬がガリレオを見ました。

エジソンも少し驚いた顔をします。

「分からない?」

「まだ、つくっていないからだ」

ガリレオは続けます。

「だから、実験する」

エジソンは、しばらく黙っていました。

そして笑います。

「面白い」

完成品をいきなりつくる必要はない。

まず、二人だけが参加する小さな仮想空間をつくる。

そこで会話や判断を分析する。

そして、その結果によって、一つだけ出来事を変化させてみる。

それができたら、次は参加人数を増やす。

分析する情報を増やす。

変化する出来事を増やす。

できるかどうか分からないからこそ、小さくつくって確かめる。

ガリレオとエジソンの話は、いつの間にか龍馬を置き去りにして進んでいました。

龍馬は二人を見ながら笑います。

「どうやら、俺の仕事はここまでみたいじゃな」

しかし、エジソンが言いました。

「いや」

「ここからが君の仕事だ」

技術が生まれたら、それは誰のものか

エジソンは資料を閉じました。

「研究には興味がある」

龍馬の顔が明るくなります。

しかし、エジソンは続けました。

「一つ、決めておかなければならない」

「何じゃ?」

「一緒につくった技術は、誰のものになる?」

龍馬は黙りました。

発明株式会社が研究者と設備を出す。

偉人株式会社も、商品構想や設計を持ち込む。

共同研究の結果、新しい技術が生まれたとする。

その技術を、どちらが使えるのか。

競合する事業にも使えるのか。

他社への提供は認めるのか。

「そこまで決めてなかったか」

「……決めてない」

「なら、今日はここまでだ」

交渉決裂。

ではありませんでした。

エジソンは言います。

「条件を考えてこい」

「条件?」

「私たちにも利益があり、君たちも事業を続けられる条件だ」

龍馬はうなずきました。

「分かった」

断られたのではありません。

ここから、本当の交渉が始まったのです。

今度の相手は、社内だった

会社に戻った龍馬は、全員を集めました。

「発明株式会社は、一緒に研究してくれるかもしれん」

「おお!」

秀吉が声を上げます。

「じゃあ決まりじゃないか!」

「まだじゃ」

家康が聞きました。

「何が問題なのですか?」

「一緒につくった技術を、誰が、どこまで使えるようにするかじゃ」

部屋の空気が変わりました。

諸葛亮が口を開きます。

「発明株式会社が自由に使えるのであれば、将来、我々の競合企業に同じ技術が提供される可能性があります」

家康も続けます。

「こちらも費用を負担して開発するのであれば、慎重に決める必要があります」

秀吉が言いました。

「じゃあ、俺たちだけが使えるようにすればいいだろ」

「それでは、向こうにメリットがないわ」

クレオパトラでした。

「私たちは、また同じことをするの?」

秀吉が黙ります。

チューリングとの交渉。

自分たちの都合だけを考え、相手が提携する理由をつくれなかった。

クレオパトラは続けます。

「そもそも、お客様がお金を払うのは、技術そのもの?」

誰も答えません。

「同じ技術を使った会社があったとしても、同じ商品になるとは限らないでしょう」

誰に届けるのか。

どんな経験をつくるのか。

その経験を、どう成長につなげるのか。

技術は重要です。

しかし、

技術だけが、商品の価値ではありません。

しばらくして、劉邦が龍馬に聞きました。

「龍馬」

「何じゃ?」

「お前は、どうしたい?」

龍馬は少し考えました。

そして答えます。

「技術を独り占めすることより、この商品を世に出すことを優先したい」

「誰のものか」ではなく、「どう使うか」

数日後。

龍馬とガリレオは、再び発明株式会社を訪れました。

龍馬は条件を提示します。

まずは、完成品を目指さない。

小規模な共同研究から始める。

研究費用。

担当する研究。

使用する設備。

それぞれの役割を最初に決める。

そして、共同研究を始める前から偉人株式会社が持っていた設計やノウハウは、偉人株式会社のもの。

発明株式会社がもともと持っていた技術も、発明株式会社のもの。

問題は、共同研究によって新しく生まれた技術です。

龍馬は言いました。

「こうするのはどうじゃ?」

エジソンが龍馬を見ます。

「共同研究で新しく生まれた技術は、俺たちも御社も使える」

「ただし、相手と競合しうる商品に使うときは、勝手には使わん」

「相手の競合になりそうな企業に提供するときも同じじゃ。必ず、先に話し合う」

エジソンは確認します。

「つまり、共同研究で生まれた技術は双方が使える。ただし、相手の事業と競合する使い方や、競合企業への提供は事前に協議する?」

「そういうことじゃ」

エジソンは少し考えました。

そして、手を差し出します。

「分かった。その条件なら、一緒にやろう」

龍馬は、その手を握りました。

それまで黙っていたガリレオが言います。

「では、実験を始めよう」

エジソンが笑いました。

「気が早いな」

「実験しなければ、できるかどうかは分からない」

こうして――

偉人株式会社と発明株式会社は、小規模な共同研究から始めることで合意しました。

商品が完成したわけではありません。

技術が実現できることも、まだ証明されていません。

それでも偉人株式会社は、

自分たちだけではつくれない商品を、一緒に形にしていく提携先を見つけました。

提携先は見つかった。でも……

会社に戻った龍馬が報告すると、秀吉は立ち上がりました。

「よし!」

「これで商品がつくれるな!」

龍馬も笑います。

「まあ、一歩前進じゃな」

そのとき。

家康が静かに手を挙げました。

「一つ、確認してもよろしいでしょうか」

秀吉が振り返ります。

「なんだ?」

家康は、以前つくった開発計画書を机の上に置きました。

その隣に、資金計画を置きます。

「共同開発の相手は見つかりました」

「そうだ」

「研究者も、設備も借りられる可能性があります」

「そうだな」

家康は、全員を見ました。

そして言いました。

「では、その費用はどうやって支払うのですか?」

「…………」

誰も答えません。

偉人株式会社の資本金は、7,000万円。

一方、当初見積もった開発費は、少なくとも1億8,500万円。

もちろん、共同研究によって開発方法や費用が変わる可能性はあります。

しかし――

提携先が見つかったからといって、お金が増えたわけではありません。

秀吉がつぶやきました。

「……金、ないな」

劉邦が笑います。

「じゃあ、次は金を集めるか」

こうして偉人株式会社は、

会社をつくり、

商品を考え、

売り方を考え、

開発方法を考え、

そして、提携先を見つけました。

次に待っていたのは――

「どうやって、不足している資金を集めるのか」

という、新しい経営課題でした。

偉人株式会社の挑戦は、まだ続きます。


※本記事は、歴史上の人物の史実や実在する技術・研究、共同研究・共同開発の考え方を参考にしたフィクションです。登場人物の会話や「偉人株式会社」「知能株式会社」「発明株式会社」、商品・サービス、企業間の交渉は架空のものです。

参考・出典

※「発明株式会社が次に何を商品化するか模索している」という設定は、本連載上のフィクションです。

共同研究・共同開発について

本編では物語として簡略化しています。
実際の共同研究・共同開発では、各社が従来から保有する知的財産や、共同研究から生まれた成果について、帰属、利用条件、第三者への許諾などを契約で具体的に定めることがあります。

※本編の「双方が利用でき、競合用途などは事前協議する」という条件は、偉人株式会社と発明株式会社の架空の契約条件です。

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▶第5-1話|歴史上の偉人だけで会社を作ったら ~業務提携編・前編~

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