日本で最初の銀行とされる第一国立銀行をはじめ、数多くの企業の設立や経営に関わった人物がいます。
渋沢栄一です。
渋沢が生涯に設立や経営に関わった会社は、約500社。
銀行、製紙、紡績、鉄道、海運、保険、ホテル――。
日本が近代国家へと変わっていくなかで、さまざまな産業の発展に関わりました。
そのため、現在では**「日本資本主義の父」**とも呼ばれています。
しかし、渋沢栄一のすごさは、
「たくさんの会社に関わったこと」だけではありません。
むしろ興味深いのは、その方法です。
自分一人ですべてをやるのではない。
人を集める。
お金を集める。
知恵を集める。
それぞれが持っている力を合わせて、一人ではできない大きな事業を実現していく。
渋沢が実業界で実践した、こうした考え方は「合本」と呼ばれます。
では――。
そんな渋沢栄一が、約150年後の現代に生きていたらどうでしょう。
人と人が一瞬でつながることのできる、
「SNS」
という道具を手にしたら。
Xを使うでしょうか。
Instagramは?
YouTubeは?
おそらく使うでしょう。
しかし、渋沢栄一がSNSで集めようとするものは、
「フォロワー」ではない。
そんな気がします。
今回は、渋沢栄一が実際に残した思想や功績をもとに、
「もし渋沢栄一がSNS時代に会社をつくったら?」
を考えてみます。
※この記事は、渋沢栄一の実際の思想や事績をもとにした思考実験です。SNSに関する描写は史実ではなく、現代に置き換えた考察です。
渋沢栄一が大切にした「合本」
渋沢栄一が活躍した明治時代。
日本には、これから新しくつくらなければならない産業がたくさんありました。
しかし、大きな事業を一人の力だけで始めるのは簡単ではありません。
そこで渋沢が重視したのが、
多くの人から資本を集め、適切な人材とともに事業を進めること。
渋沢栄一記念財団では「合本主義」について、公益を実現するために適切な人材と資本を集めて事業を進める考え方として説明しています。
簡単に言えば、
一人でできないなら、みんなの力を合わせればいい。
ということです。
実際、渋沢は自分ですべての会社を経営したわけではありません。
会社を設立する人に助言する。
資金や人材を集める。
必要なら自ら出資する。
時には、揉め事の仲裁まで行う。
そうやって、多くの事業を支えていきました。
では、この「合本」という発想を持った人物が、SNSのある時代に現れたらどうなるでしょうか。
まず、会社をつくらないかもしれない
ここからは空想です。
2026年。
渋沢栄一、起業。
普通なら、
会社をつくる。
商品をつくる。
SNSアカウントを開設する。
そして、
「どうやってフォロワーを増やそう?」
と考えるかもしれません。
しかし渋沢なら、順番が違うのではないでしょうか。
いきなり商品を売るのではなく、まずSNSで、
「自分は、何のためにこの事業をするのか」
を発信する。
社会のどんな問題を解決したいのか。
利益を出した先に、どんな社会をつくりたいのか。
自分は何を大切にしているのか。
それを毎日、淡々と伝えていく。
最初のフォロワーは100人かもしれません。
それでも渋沢は、あまり気にしないように思います。
1万人のフォロワーより、100人の仲間
ある日、投稿を読んだ一人の経営者から連絡が来ます。
「その考え方に共感しました」
次に、技術を持った人がやってくる。
「私なら、それをつくれます」
さらに、
「その事業なら出資したい」
という人が現れる。
気がつけば、
お金を持っている人。
技術を持っている人。
営業ができる人。
場所を持っている人。
それぞれ違うものを持った人たちが集まっている。
これこそ、**現代版の「合本」**なのかもしれません。
SNSを、
「自分を有名にする場所」ではなく、
「同じ目的を持つ人と出会う場所」にする。
もし渋沢栄一がSNSを使ったなら、そんな使い方をするのではないでしょうか。
フォロワーを増やす前に、信用を増やす
ただし、人やお金を集めるためには必要なものがあります。
信用です。
渋沢は、実業における信用や道徳を非常に重視した人物でもありました。
利益を得ることそのものを否定するのではなく、経済活動の根底には道徳が必要であり、社会全体の繁栄に責任を持つべきだと考えていました。
これはSNSでも同じではないでしょうか。
10万人に知られていても、
「この人の言うことは信用できない」
と思われていたら、人もお金も集まりません。
反対にフォロワーが100人でも、
「この人なら任せられる」
と思ってくれる人が100人いたら。
そこから、新しい事業が生まれる可能性があります。
だから渋沢なら、
フォロワーを増やす前に、信用を増やす。
そんなSNS運用をするように思います。
バズる投稿をするだろうか
もちろん、渋沢も多くの人に自分の考えが届くこと自体は歓迎するでしょう。
でも、
数字を伸ばすために過激なことを言う。
事実より面白さを優先する。
商品を売るために、都合のいいことだけを伝える。
そんな方法を選ぶでしょうか。
ここで思い出したいのが、渋沢の**「道徳経済合一」**という考え方です。
渋沢は、道徳と経済は切り離すものではなく、ともに進むべきものだと考えていました。
現代のSNSに置き換えるなら、
「伸びれば、何をしてもいいわけではない。」
ということなのかもしれません。
10万人に一度だけ見てもらうことより、
100人から、
「この人の言うことなら信じられる」
と思ってもらう。
渋沢なら、そちらを選ぶような気がします。
SNSは、現代の「合本装置」なのかもしれない
約150年前。
渋沢栄一は、人材と資本を集め、多くの事業に関わりました。
当時、人と出会うためには、手紙を書いたり、紹介してもらったり、実際に会いに行ったりする必要がありました。
ところが今は違います。
スマートフォンから発信すれば、遠く離れた人にも自分の考えを届けられます。
そして、
「この人と仕事をしたい」
「この会社を応援したい」
「この事業に参加したい」
と思う人と出会うことができます。
そう考えると、SNSは単なる広告媒体ではありません。
人・お金・知識・技術・信用をつなぐ、現代の「合本装置」
と考えることもできるのではないでしょうか。
もし渋沢栄一の投稿に「いいね」が100しかなかったら
最後に、こんな場面を想像してみます。
渋沢栄一が一生懸命書いた投稿。
いいねは100。
隣を見ると、別の投稿には10万いいね。
普通なら、
「自分の発信には価値がないのかな」
と思ってしまうかもしれません。
でも渋沢なら、その100という数字ではなく、
「誰が読んでくれたのか」
を見るのではないでしょうか。
100人の中から、
一緒に事業をする人が一人現れる。
出資してくれる人が一人現れる。
困ったときに助けてくれる人が一人現れる。
それなら、その投稿には十分な価値があります。
SNSでは、どうしても数字が目に入ります。
フォロワー数。
いいね数。
再生回数。
でも、本当に集めるべきものは、数字なのでしょうか。
もし渋沢栄一がSNS時代に会社をつくったなら。
きっと最初に集めようとするものは、
フォロワーではなく、「信用」だったのではないでしょうか。
そして、その信用によって人が集まり、お金が集まり、知恵が集まる。
一人ではできなかったことが、できるようになる。
約150年前に渋沢栄一が実践した「合本」という考え方。
それはSNSの時代になった今だからこそ、新しい意味を持つ考え方なのかもしれません。
以上
「一流の思考ラボ」編集長でした。
参考・出典
・渋沢栄一記念財団|渋沢栄一Q&A「渋沢栄一が関わった会社」
