私たちは普段、当たり前のように「株式会社」という言葉を使っています。
トヨタ自動車株式会社。
株式会社ソニーグループ。
株式会社〇〇。
世界中に株式会社があります。
でも、考えてみると不思議ではないでしょうか。
なぜ会社には「株」というものがあるのでしょうか。
その原点をたどっていくと、約400年前のヨーロッパに行き着きます。
そして、株式会社につながる仕組みが発達した背景には、
「一人では、とてもできないことをやりたい」
という人間の挑戦がありました。
一度の航海に、莫大なお金が必要だった
17世紀初頭のヨーロッパ。
当時、大きな利益を生む可能性を秘めていたのが、アジアとの貿易でした。
香辛料などをヨーロッパへ持ち帰ることができれば、大きな商売になります。
ところが、そこには大きな問題がありました。
船を用意する。
船員を雇う。
食料を積む。
長い航海に耐えられるだけの物資を準備する。
遠くアジアまで船を送り出すには、莫大なお金が必要です。
しかも、無事に帰ってこられる保証はありません。
嵐に遭うかもしれない。
船が難破するかもしれない。
戦闘に巻き込まれるかもしれない。
つまり、
成功すれば大きい。
しかし、失敗したときの損失も大きい。
一人の商人がすべてのお金を出すには、あまりにもリスクの大きな挑戦でした。
「だったら、みんなでお金を出せばいい」
そこで発達していったのが、
多くの人がお金を出し合う
という仕組みです。
一人で100のお金を出すのが難しいなら、
10人で10ずつ出せばいい。
100人で1ずつ出してもいい。
そして、航海によって利益が生まれたら、出したお金に応じて利益を分ける。
今では当たり前に聞こえる考え方ですが、これによって、一人では背負えなかった巨大なリスクを、多くの人で分けることができるようになります。
実際、オランダではアジア貿易を行う複数の会社が存在し、航海ごとに資金を集めていました。
船が戻ってくると、出資者へ元本と利益を返す。
そして次の航海では、また新しくお金を集める。
そんな仕組みだったのです。
1602年、オランダ東インド会社が誕生する
ところが、別の問題が起こります。
オランダ国内の貿易会社同士が激しく競争するようになり、利益を圧迫し始めたのです。
さらに当時のオランダ共和国には、スペインやポルトガルとの対立という事情もありました。
そこで1602年、複数の会社が統合され、
オランダ東インド会社(VOC)
が誕生します。
ここで画期的だったことの一つが、広く出資者を募ったことでした。
VOCへの出資は、一部の大富豪だけに限られたものではありませんでした。
オランダ国立公文書館に残る1602年の記録を見ると、大口の商人だけでなく、50ギルダーや60ギルダーを出資した人も確認できます。
つまり、
「この事業に可能性があると思う人がお金を出し、その成功に参加する」
という仕組みが生まれたのです。
さらにすごかったのは、「株を売れる」こと
ただし、長期的な事業にお金を出すとなると、別の問題が出てきます。
「途中でお金が必要になったら、どうするのか?」
そこで重要になったのが、
出資した権利を、別の人へ売ることができる仕組み
でした。
VOCの持ち分は売ったり、交換したりすることができました。
これが非常に大きな意味を持ちます。
会社そのものは事業を続けながら、
「私はここで抜けたい」
という人は、自分の持ち分を別の人へ売ることができる。
反対に、
「この会社はこれから伸びそうだ」
と思った人は、それを買うことができる。
こうしてVOCの株式は活発に取引されるようになり、17世紀のアムステルダムでは株式市場が発展していきました。
現在、私たちが証券会社を通じて企業の株を売買している世界につながる仕組みが、すでに400年以上前に動き始めていたのです。
株式会社は「お金を集める仕組み」だけではない
株式会社というと、
「会社がお金を集めるための仕組み」
と考えてしまいがちです。
でも、その歴史をたどってみると、もう少し違った姿が見えてきます。
一人では用意できないほどのお金が必要だった。
一人では背負えないほど大きなリスクがあった。
それでも、
「この挑戦を実現したい」
という人たちがいた。
だから、
一人でできないなら、みんなで挑戦できる仕組みをつくろう。
そんな発想が、現代の株式会社につながる仕組みを発展させていきました。
もちろん、VOCをそのまま現在の株式会社と同じものと考えることはできません。
株式会社や共同出資の仕組みにはVOC以前からさまざまな前史があり、イギリス東インド会社も1600年に設立されています。
それでもVOCは、継続的な資本、譲渡できる株式、所有と経営の分離など、現代企業につながる重要な特徴を備えた先駆的な存在として経済史上、大きな意味を持っています。
一人ではできないことも、「仕組み」があればできる
株式会社が生まれた歴史には、現代の私たちにも通じる面白い考え方があります。
大きすぎる課題を前にすると、
「自分には無理だ」
と考えてしまうことがあります。
でも、本当にそうなのでしょうか。
一人では足りないなら、人を集める。
お金が足りないなら、みんなで出す。
リスクが大きすぎるなら、分ける。
できない理由をなくすために、「仕組み」をつくる。
400年前の人々が生み出したものは、単なる会社の形ではありませんでした。
それは、
一人ではできないほど大きな挑戦を、みんなの力で可能にする方法
だったのかもしれません。
いま世界中に存在する「株式会社」という言葉。
その当たり前の四文字の向こうには、
「どうすれば、もっと大きなことに挑戦できるだろう」
と考えた人たちの歴史が残っています。
以上
「一流の思考ラボ」編集長でした。
参考・出典
- オランダ国立公文書館(Nationaal Archief)「オランダ東インド会社(VOC)関連史料」
- オランダ国立公文書館(Nationaal Archief)「1602年のVOC出資記録」
- University of Groningen Research Portal「The Formative Years of the Modern Corporation: The Dutch East India Company VOC, 1602–1623」
