「AIに仕事を奪われる」
ここ数年、そんな言葉を何度も耳にするようになりました。
文章を書く。
画像をつくる。
資料をまとめる。
質問に答える。
私たちがこれまで目にしてきたAIの多くは、パソコンやスマートフォンの**「画面の中」で働くAI**でした。
ところが今、そのAIが画面の外へ出ようとしています。
工場で機械を動かす。
周囲の状況を判断する。
そして、自ら作業する。
AIは「考える」だけでなく、現実世界で「働く」存在になろうとしているのです。
日本の製造業約20社が動き出した
2026年8月、日本の製造業で興味深いプロジェクトが動き始めました。
ソフトウェア開発などを手掛けるアルムを中心に、京セラ、神戸製鋼所、ニデックマシンツール、日本マイクロソフトなどが参加予定の「製造AIXアベンジャーズ」というプロジェクトです。
現在、約20社でのスタートが予定されています。
目指しているのは、国産フィジカルAIを搭載した完全自動の切削加工機。
日本企業が持つ高度な加工技術や製造ノウハウ、加工データなどを集めてAIに学習させ、大型切削加工の自動化・AI化を進めていく計画です。
プロジェクト期間は、2026年10月1日から2030年9月30日までの4年間が予定されています。
そもそも「フィジカルAI」とは?
名前だけ聞くと、少し難しく感じるかもしれません。
でも、考え方はそれほど複雑ではありません。
これまで私たちが使ってきた生成AIは、
質問する
↓
AIが考える
↓
文章や画像などで答える
という使い方が中心でした。
一方、フィジカルAIは、
見る・感じる
↓
AIが考える
↓
現実世界で動く
ところまで担います。
たとえば工場なら、
「この部品をどう加工すればいいのか」
「機械をどう動かせばいいのか」
「いまの状況なら次に何をすべきか」
といったことをAIが判断し、機械やロボットが実際の作業につなげていく。
つまり、
AIに「頭脳」だけでなく「身体」がつく。
そんなイメージで考えると分かりやすいかもしれません。
日本には「AIに教えられるもの」がある
ここで、このニュースの面白いところがあります。
生成AIの世界では、アメリカや中国の巨大テクノロジー企業が大きな存在感を示しています。
では、日本はAI時代に勝てないのでしょうか。
必ずしも、そうとは限りません。
日本には長年、製造現場で積み上げてきた技術があります。
熟練技術者が持つ感覚。
加工条件の調整。
機械の使い方。
不具合への対応。
品質を守るための工夫。
こうしたものは、一朝一夕で生まれたものではありません。
今回のプロジェクトでも、日本の製造業が持つ加工技術や製造ノウハウを産業横断的に集約し、AIに学習させることが掲げられています。
つまり、
「誰が一番すごいAIをつくれるか」だけではなく、
「AIに何を教えられるか」も競争力になる。
ここに、日本の製造業の面白い可能性があります。
「人がいらなくなる」という話だけではない
フィジカルAIと聞くと、
「いよいよ工場から人がいなくなるのでは?」
と思うかもしれません。
確かに、自動化される仕事はこれから増えていくでしょう。
しかし、今回のニュースから考えたいのは、
「AIが人間の仕事を奪うかどうか」だけではありません。
人間が何十年もかけて身につけてきた技術を、どう次の世代へ残していくのか。
人手不足の中で、どうやって日本のものづくりを維持するのか。
人間にしかできない仕事に、どう時間を使えるようにするのか。
AIは「人間の代わり」だけではなく、
人間が積み上げてきたものを残し、広げるための道具
にもなり得ます。
AI時代に価値を持つのは「AIそのもの」だけではない
今回のニュースは製造業の話です。
でも、この考え方は他の仕事にも当てはまるのではないでしょうか。
会社には、その会社にしかない仕事の進め方があります。
営業担当者には、お客様との接し方があります。
職人には、経験から身につけた感覚があります。
経営者には、何度も失敗しながら身につけた判断があります。
これまでは、こうしたものを持っている「人」そのものが財産でした。
これからは、それに加えて、
その人が持っている知識や経験を、どれだけ残し、共有し、AIに活用できる形にできるか。
そこにも大きな価値が生まれてくるのかもしれません。
AIが「画面の外」に出る時代
生成AIが急速に広がったことで、私たちはAIを身近に感じるようになりました。
しかし、それはまだ始まりなのかもしれません。
AIが文章を書く。
AIが画像をつくる。
そして次は、
AIが機械を動かし、現実世界で仕事をする。
日本政府もフィジカルAIを重要分野として位置づけ、AIロボットの開発や社会実装を進める方向を打ち出しています。日本の強みである現場データを、フィジカルAIなどに生かす考えも示されています。
AIの進化を見るとき、
「AIには何ができるのか?」
だけを考えるのではなく、
「自分たちには、AIに何を教えられるのか?」
そんな視点を持つことも、これからは大切なのかもしれません。
AIが「考える」だけではなく「働く」時代。
そのとき価値になるのは、最新のAIだけではなく、私たちがこれまで積み上げてきた経験や知識なのかもしれません。
そして、AIに教える側である私たち自身も、学ぶことをやめてはいけない。
AIがどれだけ進化しても、私たち自身の進歩を止めないこと。
それが、これからのAI時代を生きていくうえで最も大切なことなのかもしれません。
以上
「一流の思考ラボ」編集長でした。
参考・出典
アルム株式会社「アルム株式会社を中心に『製造AIXアベンジャーズ™』が始動」
LOGI-BIZ online「京セラや神戸製鋼所など製造業20社、フィジカルAIの実用化へ独自プロジェクト立ち上げ」
