人前で話すとき。
大事な商談の前。
試験や面接、スポーツの試合。
まったく緊張しない人もいれば、心臓がドキドキして、いつもの自分ではいられなくなる人もいます。
私自身も、どちらかといえば緊張するタイプです。
ただ、自分自身を振り返ってみると、不思議なことがあります。
どうでもいいことでは、それほど緊張しません。
むしろ、
自分が真面目に取り組んできたことほど、緊張するのです。
「失敗したくない」
「ちゃんと伝えたい」
「準備してきたものを出し切りたい」
そう思えば思うほど、本番が近づくにつれて緊張してくる。
だとすると、緊張することは本当に悪いことなのでしょうか。
緊張する人と、しない人は何が違う?
まず知っておきたいのは、緊張のしやすさには個人差があるということです。
もともと不安を感じやすい傾向だけでなく、その場面をどう受け止めているか、自分なら対処できると思えているか、周囲からどう評価されると感じているかなど、さまざまな要因が関係します。
つまり、
「緊張する人=気が弱い」
と単純に決められるものではありません。
同じ100人の前で話すとしても、
「多少失敗しても大丈夫」
と思っている人と、
「絶対に失敗できない」
と思っている人では、感じるプレッシャーは違うでしょう。
そしてもう一つ重要なのが、
その結果が、自分にとってどれくらい大切なのか
ということです。
大切だからこそ、緊張することもある
これは私自身も、とても実感します。
真面目に準備した仕事。
どうしても成功させたい仕事。
相手にきちんと伝えたい場面。
そんなときほど緊張します。
逆に言えば、失敗しても何とも思わないことなら、そこまで緊張する必要もありません。
心理学の研究でも、緊張や不安は、単に「失敗しそうだから」生まれるわけではないと考えられています。
「この仕事は絶対に成功させたい」
「この試合にはどうしても勝ちたい」
その結果を大切に思っているほど、失敗したときのことも大きく感じやすくなります。
だから、大切な場面ほど緊張する。
そう考えると、緊張は**「本気で向き合っているからこそ生まれる感情」**ともいえるのではないでしょうか。
だから、緊張したときに、
「自分はメンタルが弱い」
と考える必要はないのかもしれません。
もしかすると、
「それだけ自分にとって大切なことなんだ」
というサインでもあるからです。
緊張することは、真剣に向き合ってきたことの裏返しになる場合もあります。
緊張する人にも、しない人にも強みがある
一般的には「緊張しない人の方が強い」と思われがちです。
確かに、緊張しにくい人には大きなメリットがあります。
本番でも普段に近い状態でいられる。
必要以上に周囲の反応を気にしない。
失敗を恐れず行動しやすい。
これは仕事でもスポーツでも、大きな強みになるでしょう。
一方で、緊張しやすいことにも別の側面があります。
失敗したくないから、入念に準備する。
想定される質問を考えておく。
何度も練習する。
相手がどう感じるかを考える。
もちろん、「緊張しやすい人が必ず準備上手」「緊張しない人が準備下手」というわけではありません。
それでも、緊張を「準備する力」に変えることはできます。
反対に、緊張しないことも、場合によっては油断につながるかもしれません。
つまり大切なのは、
緊張するか、しないかだけで優劣を決めないことです。
緊張は、少なければ少ないほどいいのか
実は、これも単純ではありません。
心理学には、覚醒の程度とパフォーマンスの関係について、適度な覚醒状態では力を発揮しやすい一方、強すぎればパフォーマンスが低下することがある、という考え方があります。
ただし、誰にでも共通する「ちょうどいい緊張度」があるわけではありません。
仕事内容や経験、その人自身によっても違います。
重要なのは、
緊張そのものが、必ずパフォーマンスを悪くするわけではない
ということです。
問題になるのは、緊張したことで、
「失敗したらどうしよう」
「手が震えている」
「みんな自分を見ている」
と意識がそれ続け、本来やるべきことに集中できなくなることです。
だから目標は、
緊張をゼロにすることではありません。
「落ち着かなきゃ」が逆効果になることもある
緊張すると、多くの人が自分にこう言います。
「落ち着け」
でも、心臓がドキドキしているときに、いきなり完全に落ち着いた状態になるのは簡単ではありません。
そこで興味深い研究があります。
ハーバード・ビジネス・スクールのアリソン・ウッド・ブルックス氏は、歌、人前でのスピーチ、数学課題などを使った実験で、緊張している状態を「落ち着いている」と捉えようとするより、「ワクワクしている」と捉え直した人の方が、パフォーマンスが良くなる傾向を報告しました。
不安もワクワクも、心拍が上がるような「高い覚醒状態」という点では似ています。
だから、
「緊張するな」
と無理に消そうとするより、
「これはワクワクでもある」
と意味を変える方がうまくいく場合があるのです。
緊張したら、「なくす」のではなく「使う」
では、大事な場面で緊張したら、どうすればいいのでしょうか。
まず、
「また緊張してしまった」
ではなく、
「それだけ自分にとって大切なんだな」
「ワクワクしてきた」
と、緊張の意味を変えてみる。
そして本番では、「絶対に成功させる」と考えるより、
「まず最初の一文をゆっくり話そう」
と、目の前の行動に意識を向ける。
緊張そのものを、なくそうとする必要はありません。
緊張は、真面目に準備してきたから、本気で成功させたいからこそ生まれることもあります。
そして、その高まりを「ワクワク」に変換できれば、集中や行動のエネルギーとして使えるかもしれません。
だとしたら、緊張は必ずしもマイナスではありません。
目指すべきは「緊張しない人」ではなく、
「緊張を、自分の力に変えられる人」
なのかもしれません。
緊張したおかげで生まれたその高まりが、いつもの自分に「プラスα」を与えてくれる。
そう考えると、
緊張することは、案外いいことなのかもしれません。
以上
「一流の思考ラボ」編集長でした。
参考・出典
・American Psychological Association「Yerkes–Dodson law」
