「新卒」という枠は、本当に必要?|ミスミがなくした採用の“境界線”

大学3年生になったら、就職活動を始める。

会社説明会に参加する。

エントリーシートを書く。

面接を受ける。

そして大学を卒業したら、4月から会社員になる。

日本では、あまりにも当たり前の光景です。

でも、少し立ち止まって考えてみると、不思議ではないでしょうか。

なぜ大学生は、大学に通っている途中で就職活動をするのでしょうか。

そして、

なぜ大学を卒業してから就職活動を始めると、「新卒」という枠から外れていくのでしょうか。

私たちが「普通」だと思っている新卒採用。

その“境界線”をなくそうとしている会社があります。

ミスミが「新卒」と「中途」を分けるのをやめる

2026年9月9日、ミスミグループ本社は、若手人材の採用制度を大きく変更すると発表しました。

2026年11月から、従来の新卒採用とキャリア採用の枠組みを撤廃。

学生から社会人経験3年目程度までを対象にした、

「若手ポテンシャル採用(通年採用)コース」

へ一本化します。

対象になるのは、在学中の学生だけではありません。

既卒者。

すでに働いた経験のある第二新卒なども含まれます。

ミスミは、過去の経歴や「新卒・キャリア」という区分を問わず、若手人材を一つの採用コースで受け入れます。

つまり、

「あなたは新卒ですか、中途ですか?」

というところから人を見るのではなく、

「これからキャリアをつくっていく人」

という視点で見る。

この変更だけでも興味深いのですが、私はもう一つの部分に目が止まりました。

入社するのも「4月」でなくていい

ミスミの新しい制度では、入社時期も一つではありません。

4月、7月、10月、1月。

複数の時期から選べるようになります。

その理由としてミスミは、学業の総仕上げや留学、現在担当している仕事の引き継ぎなど、一人ひとりの事情に合わせて選考や入社の時期を選べるようにすると説明しています。

ここを読んで、私はとてもいい考え方だと思いました。

なぜなら以前から、日本の就職活動について疑問に感じていることがあるからです。

大学は、就職活動をするための場所なのだろうか

私は、大学とは本来、

自分が学びたいことを突き詰めるために行く場所

だと思っています。

もちろん、大学へ行く目的は人それぞれです。

将来の仕事につながることを学ぶ人もいるでしょう。

資格を取る人もいます。

それでも、学生である間は「学ぶこと」が中心にあってもいいはずです。

ところが日本では、大学生活の途中から就職活動が始まります。

授業がある。

研究したいことがある。

ゼミもある。

それでも、会社説明会や面接の日程が重なれば、就職活動のために時間を使わなければならないことがあります。

私は、そこにずっと違和感があります。

大学で学ぶために大学へ入ったのに、なぜその学びの時間を削ってまで、卒業後の会社を探さなければならないのでしょうか。

もちろん、在学中に就職先を決めたい人は、それでいいと思います。

問題は、

「大学を卒業するまでに就職先を決めるのが普通」

という考え方が、あまりにも強くなっていることではないでしょうか。

日本では「卒業前に決める」が当たり前になっている

日本の就職活動の特徴について、OECDも興味深い指摘をしています。

日本では他のOECD諸国以上に、学生が卒業する前に就職先を決める傾向があり、就職活動そのものも卒業の1年以上前から始まる、非常に定型化された仕組みだとしています。

もちろん、海外でも在学中から就職活動をする学生はいます。

ですから、

「海外では卒業後、日本では在学中」

と単純に分けることはできません。

それでも、

「卒業するまでに就職先を決めておかなければならない」

という時間軸に、ここまで強く合わせる必要はあるのでしょうか。

私は、大学で学びたいことがあるのなら、卒業するまで思い切り学んでもいいと思います。

そして卒業したあとに、

「さて、自分はこれから何をしたいのだろう」

と考える。

そこから企業を探し、面接を受けてもいい。

企業側も、それを特別なことではなく、普通の選択肢として受け入れてもいいのではないでしょうか。

「新卒採用がある」と「新卒で就職しなければならない」は違う

もちろん、新卒採用そのものを否定したいわけではありません。

社会人経験のない若者を、企業が将来性を見て採用する。

入社後に育成する。

経験や実績がなくても、社会へ出る入口が用意されている。

これは、新卒採用の大きな良さです。

だから、

新卒採用をなくせばいい

という話ではないと思います。

大切なのは、

「新卒採用があること」と、「新卒で就職しなければならないこと」は違う

ということです。

実際、日本でも企業に対して、卒業・修了後少なくとも3年以内の既卒者が新卒採用枠に応募できるようにすることや、通年採用など多様な募集機会を提供することが求められています。

つまり制度の側でも、

「卒業と同時に一度だけある入口」

から少しずつ変わろうとしているわけです。

入口は、一つでなくていい

今回、ミスミがなくしたのは「新卒採用」という言葉そのものではありません。

なくしたのは、

新卒か。
既卒か。
社会人経験があるか。

という境界線を、若手採用の入口にする考え方です。

私は、ここが今回のニュースで一番面白いところだと思います。

大学3年生から就職活動をしてもいい。

卒業するまで勉強してから、仕事を探してもいい。

留学してからでもいい。

一度働いて、「違った」と思ったらもう一度選んでもいい。

どれか一つだけを「普通」にする必要はないはずです。

会社が本当に見たいのは、

いつ卒業したのか。

いつ就職活動を始めたのか。

ということだけではなく、

その人がどんなことを学び、何を考え、これから何をしたいのか

ではないでしょうか。

新卒採用が普通だから、新卒採用をする。

大学3年生になったから、就職活動をする。

4月だから、働き始める。

そんな「普通」を、一度だけ疑ってみる。

ミスミがなくした一つの“境界線”は、

働き始める入口は、もっと自由でいいのではないか。

そんな問いを、私たちに投げかけているように思います。

以上
「一流の思考ラボ」編集長でした。


参考・出典


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