飲食店で、お客様が長居する。
席数が限られているお店にとって、お客様の滞在時間が長くなることは、売上を伸ばすうえで不利になる場合があります。
できるだけ多くのお客様に利用してもらうために、席の回転率を高める。
それも、飲食店の経営戦略の一つです。
しかし、コメダ珈琲店では、少し違った光景が見られます。
ゆったりとしたソファに座り、コーヒーを飲みながら新聞を読む。
友人との会話を楽しむ人もいれば、一人で静かに過ごす人もいる。
コメダは、そんなふうにお客様がゆっくりとくつろげることを、お店の魅力にしています。
実は、この居心地のよさは偶然ではありません。
コメダホールディングスは、「くつろぐ、いちばんいいところ」を提供することを経営理念に掲げています。
では、コメダは、どのようにしてお客様がゆっくりとくつろげる空間をつくっているのでしょうか。
そして、その価値を守りながら、どのように利益を生み出しているのでしょうか。
そこには、コメダならではの経営戦略がありました。
コメダが売っているのは、コーヒーだけではない
コメダ珈琲店の特徴を考えるとき、最初に注目したいのが店舗の空間です。
公式サイトによると、コメダでは、お客様が心地よく過ごせるように、席までの通路の広さやテーブル、ソファの高さまで細かく設計しています。
さらに、木目やレンガの見え方にもこだわっています。
自宅のリビングのように、ほっとできる場所を目指しているのです。
接客にも、その考え方が表れています。
コメダが大切にしているのは、お客様との適切な距離感。
スタッフが一人ひとりのお客様に合わせ、居心地のよい空気をつくることを重視しています。
つまり、コメダが提供しているのは、コーヒーや食事だけではありません。
そこで過ごす時間そのものにも、価値を持たせているのです。
もちろん、くつろげる喫茶店はコメダだけではありません。
しかし、その価値を明確な理念として掲げ、全国の店舗で提供し続けようとしている点に、コメダの特徴があります。
実際、コメダホールディングスは、くつろぎの価値を高めることで常連客を増やし、店舗の収益向上につなげるという考え方を示しています。
お客様に「また来たい」と思ってもらう。
その理由を、商品の味や価格だけでなく、居心地のよさにもつくっているのです。
長居できることは、単なるサービスではなく、お客様に選ばれるための付加価値になっていると考えられます。
お客様にはゆったりと。裏側では徹底的に効率化
では、くつろげる店舗をつくるために、コメダは何をしているのでしょうか。
興味深いのは、お客様が過ごす空間ではゆとりを大切にしながら、店舗運営の裏側では効率化を進めていることです。
例えば、コーヒー。
コメダでは、自社工場で抽出したコーヒーを店舗に届けています。
パンも自社工場で製造しています。
店舗ごとにすべてを一からつくるのではなく、本部が製造や供給を担うことで、品質の安定と店舗作業の効率化を図っているのです。
さらに、同じ食材を複数のメニューで使用するなど、食材ロスを抑える工夫も行っています。
もう一つの特徴が、来店時間帯です。
一般的な飲食店では、ランチやディナーにお客様が集中しがちです。
一方、コメダはモーニングからランチ、ティータイム、ディナーまで、幅広い時間帯で利用されています。
そのため、来店需要が一日の中で分散し、人員配置や勤務時間を計画しやすいと説明しています。
お客様には、ゆったりと過ごしてもらう。
その一方で、商品の製造や店舗運営では無駄を減らす。
すべてを効率化するのではなく、効率化する部分と、手間をかける部分を分けているのです。
こうした取り組みが、コメダの「くつろぎ」を支えています。
加盟店が繁盛することは、本部にもメリットがある
コメダの経営を考えるうえで、もう一つ欠かせないのがフランチャイズ制度です。
コメダホールディングスの統合報告書2025によると、コメダ珈琲店の店舗の9割以上は、フランチャイズ加盟店によって運営されています。
つまり、多くの店舗を運営しているのは、本部ではなく、それぞれ独立した加盟店の経営者です。
そこで重要になるのが、本部と加盟店が同じ価値を共有することです。
コメダは、フランチャイズへの加盟にあたって、「くつろぐ、いちばんいいところ」という理念への共感と賛同を求めています。
加盟店も、単にコメダの看板を借りるのではありません。
本部と同じ方向を向き、地域のお客様に選ばれる店舗をつくっていくのです。
また、コメダには、加盟店の経営を支える独自のロイヤルティ制度があります。
コメダのロイヤルティは、売上に応じた歩合制ではなく、客席数に応じた定額制。
公式サイトによると、1席当たり月額1,500円です。
例えば、90席の店舗なら、月額13万5,000円。
(※金額は2025年2月期の公表資料に基づきます。)
売上が増えても、席数が変わらなければ、この金額は増えません。
もちろん、売上が増えれば食材費や人件費なども変動します。
それでも、売上を伸ばしたからといって、追加のロイヤルティが発生しないことは加盟店にとってメリットです。
ここで、一つ疑問が生まれます。
加盟店にとって、売上を増やすことは重要です。
それなら、お客様の回転率を上げた方がよいと考えるのではないでしょうか。
しかし、回転率ばかりを優先して、コメダならではの居心地のよさが失われたらどうなるでしょう。
短期的には多くのお客様を案内できたとしても、くつろぎを求めて来店していたお客様が離れてしまうかもしれません。
だからこそ、本部と加盟店が「くつろぎ」という価値を共有することに意味があります。
お客様に選ばれ続けることは、加盟店だけでなく、本部にとっても重要なのです。
なぜなら、コメダの本部には、ロイヤルティとは別の重要な収益源があるからです。
それが、加盟店への商品供給です。
本部は、コーヒーやパンなどを製造・調達し、加盟店に供給しています。
加盟店が繁盛し、商品の販売数量が増えれば、本部への発注も増えると考えられます。
また、加盟店が増えれば、ロイヤルティを受け取る店舗が増え、商品供給の機会も広がります。
加盟店がお客様に選ばれることが、本部の売上拡大にもつながる仕組みです。
「くつろぎ」と「利益」の両立
企業として事業を続けていくためには、利益が必要です。
しかし、目先の利益ばかりを追い求め、お客様に提供する価値を失ってしまえば、他社との差別化も難しくなります。
その結果、お客様から選ばれなくなれば、長期的な利益を生み出すことも難しくなるでしょう。
コメダは、「くつろぎ」という価値を大切にしながら、それを事業として成立させる仕組みをつくっています。
ここから、私たちも考えられることがあります。
「売上を増やすために、何を変えるか」
企業を経営していれば、当然考えることです。
しかし、その前に考えたいことがあります。
「自分たちは、お客様にどのような価値を提供したいのか」
その価値を明確にし、守り続ける。
そして、その価値がお客様に選ばれることで、自社にも利益が生まれる仕組みをつくる。
コメダの経営戦略から学べるのは、そんな考え方ではないでしょうか。
お客様に提供したい価値を守ることと、利益を追求することは、必ずしも対立するものではないのです。
