物価が上がれば、できるだけ安いものを選びたくなる。
食品も、日用品も、電気代も上がっているなら、なおさらです。
では、お正月に食べる「おせち」はどうでしょうか。
帝国データバンクの調査によると、2026年正月シーズンのおせち料理の平均価格は、29,098円。
前年から3.8%上昇し、平均価格は3万円目前まで来ています。
原材料や包装資材、人件費、物流費などが上がれば、おせちの価格が上昇すること自体は不思議ではありません。
面白いのは、その先です。
おせち市場では、一方で価格を抑えた商品や、大容量などコストパフォーマンスを重視した商品が展開されています。
ところがその一方で、高級ホテルやレストランが監修したものなど、質や特別感を重視した商品もあります。
帝国データバンクも、おせち市場について、低価格志向と高級志向の二極化が進み、価格競争と付加価値競争が同時に進んでいると分析しています。
つまり、
「できるだけ安く」
と、
「せっかくなら良いものを」
という、一見すると正反対の動きが同時に起きているのです。
物価高で価格に敏感になる人が増えるなか、なぜ「高級化」も同時に進むのでしょうか。
私たちは、すべての買い物で節約するわけではない
考えてみると、普段の買い物でも、すべてを同じ基準で選んでいるわけではありませんよね。
例えば、日用品なら、
「安いもので十分」
と思うことがあります。
一方で、家族の誕生日なら、
「せっかくだから、少し良い店に行こう」
と思うこともあります。
毎日の昼食にはお金をかけなくても、旅行先では普段より高い料理を選ぶ。
普段使うものは価格を重視しても、長く使いたいものには少しお金をかける。
つまり私たちは、
「ここは節約する」
というものと、
「ここにはお金を使いたい」
というものを分けています。
物価が上がれば、この違いはむしろはっきりするのかもしれません。
使えるお金が限られているからこそ、何にお金を使うのかを選ぶ必要が出てくるからです。
おせちは「食事」だけを売っているわけではない
では、おせちはどちらなのでしょうか。
もちろん、人によって違います。
「お正月の食事だから、できるだけ手頃に用意したい」
という人もいます。
一方で、
「一年に一度だから、少し良いものを選びたい」
という人もいます。
おせちは、基本的には一年に一度。
しかも、お正月という特別な日に食べるものです。
家族や親戚が集まる。
普段とは違う料理を囲む。
新しい一年を迎える。
そうした時間と結びついています。
だから、おせちに求められるものは「お腹を満たすこと」だけではありません。
味。
華やかさ。
自分では作れない料理。
有名店の味を自宅で楽しめること。
準備の手間を減らせること。
そして、
「お正月らしい時間を過ごすこと」。
同じ「食べ物」でも、普段の夕食とは少し違う価値が生まれます。
おせち市場で高価格帯の商品が展開される背景には、こうした「食事以外の価値」もあるのではないでしょうか。
同じ「おせち」でも、選ぶ理由は違う
ここで考えてみたいのが、価格を抑えたおせちと、高価格帯のおせちです。
どちらも「おせち」という名前で売られています。
しかし、選ぶ人が求めているものまで同じとは限りません。
価格を重視する人なら、
「家族みんなで食べられる量が欲しい」
「お正月の食事を手頃に用意したい」
ということが大切かもしれません。
一方、高価格帯の商品を選ぶ人なら、
「普段食べられないものを楽しみたい」
「家族が集まるから、特別なものを用意したい」
「有名店の味を自宅で楽しみたい」
ということに魅力を感じるかもしれません。
つまり、
同じおせちでも、選ばれる理由が違う。
一方では、
「この価格で、これだけ楽しめる」
ことが魅力になる。
もう一方では、
「一年に一度だから、ここにはお金を使いたい」
と思えることが魅力になる。
同じ市場の中に違うニーズがあるからこそ、「安さ」と「高級化」が同時に進む。
そう考えると、一見矛盾しているように見えたおせち市場の動きも、少し違って見えてきます。
企業が考えたいのは「何を理由に選ばれるのか」
おせち市場の動きは、ほかの商品やサービスを考えるうえでもヒントになります。
物価高になると、
「価格を下げなければ、お客様に選んでもらえない」
と考えたくなります。
もちろん、
「この価格なら買える」
と思ってもらうことは、大きな価値です。
安さを求めるお客様がいるなら、その期待に応えることも立派な戦い方です。
しかし、おせち市場を見ると、価格以外の理由で選ばれる商品もあります。
だとすれば、企業が考えるべきなのは、
「安くするか、高くするか」
だけではないのかもしれません。
その前に考えたいのは、
「お客様は、何を理由にこの商品を選ぶのか」
ということです。
価格なのか。
量なのか。
品質なのか。
便利さなのか。
特別感なのか。
体験なのか。
お客様が求めているものが違えば、企業が磨くべきものも変わります。
物価高だからといって、すべての商品が「安さ」だけを競う必要はありません。
大切なのは、
「お客様が、その商品にお金を払う理由は何なのか」
を考えること。
価格なのか。品質なのか。特別感なのか。
おせち市場を見ていると、その答えは決して「安さ」だけではないことが見えてきます。
以上
「一流の思考ラボ」編集長でした。
参考資料・出典
・帝国データバンク「2026年正月シーズン『おせち料理』価格調査」
