※この記事は2026年9月11日に更新しました。
「景気が悪いから、売れない」
仕事をしていると、そんな言葉を耳にすることがあります。
物価は上がる。人手も足りない。原材料費も高い。
確かに、自分たちの努力だけではどうにもならないことはあります。
でも、本当にすべての会社が「景気が悪い」のでしょうか。
少し視野を広げると、不思議なことに気づきます。
同じ日本で、同じ時代に商売をしているのに、会社によって見えている景色がまったく違うのです。
「日本の景気」だけでは見えないもの
Reutersが2026年9月8日に報じた企業調査では、日本の大手製造業の景況感は約5年ぶりの高水準となりました。
背景にあるのが、AIやデータセンター向けを中心とした半導体需要です。
特に電子機器の景況感は大きく改善しました。
ところが、同じ製造業でも、鉄鋼・非鉄などでは厳しい見方が残っています。
つまり、
「今は景気がいい」
という会社もあれば、
「今は厳しい」
という会社もある。
どちらかが間違っているわけではありません。
同じ経済の中にいても、どの市場に立っているかによって、受ける風は違うのです。
「景気が悪い」は、少し大きすぎる言葉かもしれない
もちろん、為替や物価、金利、世界情勢などは企業業績に大きな影響を与えます。
景気そのものを一企業が変えることはできません。
ただ、
「景気が悪いから仕方ない」
だけで終わってしまうと、少し危険です。
なぜなら、「景気」という自分では変えられないものに原因を置いた瞬間、打てる手まで見えなくなってしまうからです。
景気は変えられなくても、
- 誰に売るのか
- 何に使ってもらうのか
- どの市場で戦うのか
は変えられるかもしれません。
そのことをよく表している日本企業があります。
東レの炭素繊維は、最初から飛行機に使われていたわけではない
東レは1960年代から炭素繊維の研究を進め、1971年に「トレカ」の販売を始めました。
炭素繊維は、鉄と比べて軽く、それでいて非常に強いという特徴を持っています。
今では航空機にも使われる先端素材ですが、最初から巨大な航空機市場が待っていたわけではありません。
東レがまず開拓したのは、
釣り竿やゴルフクラブ、テニスラケットなどのスポーツ・レジャー市場でした。
当時の炭素繊維は高価でした。
しかしスポーツ用品なら、価格が多少高くても「軽い」「強い」という性能そのものに価値を感じてもらいやすい。
東レは、炭素繊維を作っただけではなく、
「この素材を最も評価してくれる場所はどこか」
を探していったのです。
そして市場は少しずつ広がっていきます。
1990年には、東レの炭素繊維複合材料がボーイング777の一次構造材として認定。
その後、ボーイング787では主翼や胴体、尾翼などにも使われるようになりました。
釣り竿やゴルフクラブで使われていた素材が、やがて世界中を飛ぶ航空機を支える素材になったのです。
「もっと売る」より先に、「もっと必要な場所」を探す
この話で面白いのは、
東レが単純に、
「炭素繊維をもっとたくさん売ろう」
と考えただけではないことです。
炭素繊維という自分たちの強みを、
どこなら高く評価してもらえるのか。
その用途と市場を広げ続けました。
これは、中小企業にも通じる話だと思います。
たとえば、高い加工技術を持っている会社があるとします。
長年取引してきた業界の需要が落ちれば、
「もっと営業しなければ」
「価格を下げなければ」
と考えるかもしれません。
もちろん、それも方法の一つです。
でも、その前にもう一つ考えてみる。
「この技術を、もっと必要としている業界はないだろうか?」
半導体かもしれない。
医療機器かもしれない。
ロボットかもしれない。
宇宙産業かもしれない。
自社の技術そのものを変えなくても、相手が変われば価値が変わることがあります。
伸びる会社は、「追い風の場所」を探している
市場には、追い風が吹いている場所もあれば、向かい風が吹いている場所もあります。
向かい風の中で努力することが間違いなのではありません。
ただ、同じ努力を続ける前に、
「そもそも、どこで戦うのか」
を考える余地はあります。
今の顧客だけが、本当に自社の顧客なのか。
今の業界だけが、自社の技術を必要としているのか。
今の商品は、別の使われ方をする可能性がないのか。
そう考えると、経営で見るべきものは「景気」だけではありません。
自社の強みと、世の中の需要が交わる場所を探すこと。
それも経営者の大切な仕事なのだと思います。
景気は選べない。でも、戦う場所は選べる
景気を自分たちで選ぶことはできません。
為替も、物価も、世界情勢もコントロールできません。
しかし、
どの市場を見るかまで、誰かに決められているわけではありません。
売れないとき、
「もっと売るにはどうすればいいか」
と考えることは大切です。
でも、もう一つ、
「もっと必要としてくれる場所はどこだろう?」
と考えてみる。
東レの炭素繊維が、釣り竿から航空機へと活躍の場所を広げていったように、
伸びるために必要なのは、努力の量を増やすことだけではないのかもしれません。
同じ強みでも、戦う場所が変われば、価値は変わる。
「景気が悪いから仕方ない」と結論を出す前に、
一度、自社が立っている場所を見直してみる。
そこに、次の成長市場が見つかるかもしれません。
以上
「一流の思考ラボ」編集長でした。
参考・出典
- Reuters「Japan manufacturers’ mood hits near 5-year high on semiconductor demand」(2026年9月8日)
- 東レ株式会社「Toray’s History」
- 東レ株式会社「Toray’s Strengths」
