なぜ飛行機の客席は「前向き」なのか|新幹線のようなボックス席がない理由

飛行機に乗って、座席に座る。

すると当たり前のように、ほとんどの乗客が同じ方向を向いています。

前向きです。

あまりにも普通の光景なので、疑問に思うことすらありません。

でも、考えてみると少し不思議です。

飛行機での移動は、数時間に及ぶことがあります。

家族旅行で利用することもあれば、修学旅行で友人たちと乗ることもあります。

だったら新幹線のように、座席を向かい合わせたボックス席があってもよさそうです。

家族や友人と顔を合わせて話せれば、長い移動時間そのものをもっと楽しめるかもしれません。

それなのに、なぜ飛行機では、みんな前を向いているのでしょうか。

「安全だから前向き」とは限らない

最初に思いつくのは、安全性です。

飛行機なのだから、きっと前向きに座るのが一番安全なのだろう。

ところが、話はそれほど単純ではありません。

航空機では、前向き以外の座席も研究され、実際に使われてきました。

FAA(米連邦航空局)は横向きの航空機座席についても衝突時の安全性を研究しており、斜め向きの座席についても、必要な安全水準を満たすための基準が設けられています。

つまり、

「飛行機の座席は前向きにしかできない」

わけではないのです。

むしろ後ろ向きには、安全上の利点がある

さらに意外なことがあります。

事故などで機体が急激に減速した場合、後ろ向きに座っていれば、身体を座席の背もたれ全体で受け止められます。

前向きの場合は、身体が前方へ動こうとするため、主にシートベルトによって拘束されます。

この違いから、後ろ向き座席には衝突時の安全性という点で利点があると、長年議論されてきました。

では、ますます不思議です。

なぜ後ろ向きの客席は広がらなかったのでしょうか。

大きな壁になったのは「人間」だった

興味深い記録があります。

英国議会の委員会が1999年にまとめた報告では、後ろ向き座席が普及していない主な理由として、航空会社や規制当局が乗客に好まれないと考えていたことを挙げています。

British Airwaysも、過去に後ろ向き座席を備えた航空機を運航したものの、乗客には人気がなかったと説明していました。

進行方向に背中を向ける。

離陸するときには、いつもとは違う方向に身体への力を感じる。

窓の外の景色と自分が向いている方向にも、違和感が生まれるかもしれません。

技術的に可能であっても、

乗る人が快適に感じるとは限らない。

ここに、飛行機の座席を考える面白さがあります。

実は「ボックス席の飛行機」は存在した

そして、さらに面白い話があります。

かつて米国のSouthwest Airlinesでは、一部の機内に座席同士が向かい合う配置が存在しました。

いわば、飛行機版のボックス席です。

グループで会話を楽しむ乗客などには人気があったとされています。

ところが、この配置は最終的に姿を消しました。

重量やメンテナンス上のコスト、テーブルなどの使い勝手、乗客の好みなど、何が決定的な理由だったのかははっきりしません。

そして現在、一般的な旅客機では前向きの座席が主流になっています。

つまり、

「飛行機にもボックス席があったら面白いのに」

という発想は、決して突飛なものではなかったのです。

実際に誰かが考え、実際に飛んでいました。

では、回転式にしたらどうだろう

ここでもう一つ疑問が浮かびます。

プライベートジェットのように、座席そのものを回転できるようにしたらどうでしょうか。

家族や友人と乗るときは向かい合わせに。

一人なら前向きに。

実は、航空機で座席を回転させるという発想そのものは新しくありません。

ビジネスジェットなどでは回転式の座席が使われていますし、Airbusも過去に、離着陸時には前向きに固定し、巡航中には座席の向きを変えられる仕組みを考案しています。

それでも、一般的な旅客機の客席には普及していません。

大きな理由として考えられるのが、重量・スペース・安全性、そしてコストです。

座席を回転させるには専用の機構や、確実に固定するための仕組みが必要になります。

何百席もある旅客機では、わずかな重量やスペースの増加でも無視できません。

さらに座席の向きが変われば、それぞれの状態で必要な安全基準を満たすことも求められます。

つまり、

「できない」のではなく、「できるけれど、一般的な旅客機に導入するには超えなければならない条件が多い」。

だからこそ現在も、シンプルな前向きの座席が主流になっているのでしょう。

「できる」と「選ばれる」は違う

ここまで調べてみると、飛行機の座席が前を向いている理由は、一つではないことがわかります。

安全基準。

座席の構造。

重量やスペース。

コスト。

そして、乗客の快適性。

さまざまな条件を組み合わせた結果、現在の形が残っています。

これは、商品やサービスを考えるときにも似ています。

技術的に優れているものが、必ず選ばれるわけではありません。

便利だから売れるとも限らない。

合理的だから受け入れられるとも限らない。

そして、面白そうだから採用できるとも限りません。

提供する側の事情と、使う側の気持ち。

その両方が重なったところに、実際の商品やサービスがあります。

次に飛行機に乗ったとき。

ずらりと前を向いた座席を見たら、

「なぜ、みんな前を向いているんだろう」

と少しだけ思い出してみてください。

当たり前に見えるものほど、その形に落ち着くまでには、意外な歴史と人間の選択が隠れているのかもしれません。

以上
「一流の思考ラボ」編集長でした。


参考・出典


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