「店を建てる」から「店を運ぶ」へ|ローソンが変えた、コンビニ出店の常識

2026年8月27日。

神奈川県海老名市の海老名運動公園に、少し変わったローソンがオープンしました。

一見すると、小さなコンビニです。

しかし、この店舗。

実は「建物」ではありません。

トレーラーハウスです。

ローソン初となるトレーラーハウス型店舗「ローソンS海老名運動公園店」。

40フィートのトレーラーハウスを売場に、20フィートを事務所・厨房として使用し、弁当やおにぎり、飲料、日用品など約500品目を販売します。

店舗面積は約42平方メートル。

通常のコンビニと比べればコンパクトです。

しかし、この店舗の本当の面白さは「小さいこと」ではありません。

店そのものを動かせることです。

これまで、

「ここにコンビニがあれば便利なのに」

と思われながら、採算や建設コストなどの問題で出店が難しかった場所があります。

そこへ、

「店を建てる」のではなく、「店を運ぶ」。

ローソンは、コンビニ出店の当たり前を少し変えようとしています。

今日はこの小さな店舗から、

「大きく投資してから始める」という経営の常識

について考えてみたいと思います。


コンビニは簡単には「つくれない」

普段、私たちは街のいたるところでコンビニを目にします。

そのため、新しい店舗をつくることも簡単なように感じてしまいます。

しかし、当然ながら店舗を一つ出すには多くの準備が必要です。

土地や物件を確保する。

設計する。

建築工事を行う。

電気や水道などの設備を整える。

什器を設置する。

商品を搬入する。

そして、ようやく開店できます。

今回のトレーラーハウス型店舗では、その常識が大きく変わりました。

通常の店舗では、設計から完成まで約10か月かかるところ、

トレーラーハウス型店舗では、

約2か月。

さらに、建築工事や設備投資を抑えることで、

出店コストは通常店舗の約3分の1。

単に「変わった形のコンビニをつくった」という話ではありません。

出店するために必要な「お金」と「時間」を大幅に小さくした。

ここに、この取り組みの大きな意味があります。


「店を出せなかった場所」が市場になる

なぜ、そこまでして店舗を小さく、簡単につくる必要があるのでしょうか。

そのヒントは、1号店の場所にあります。

今回ローソンが選んだのは、海老名運動公園です。

公園には総合体育館などがある一方、売店機能を持つ施設は限られていました。

利用者にとっては、

「ここにコンビニがあれば便利」

という場所です。

しかし、企業側から見ると話は少し違います。

人は来る。

需要もある。

けれど、通常サイズのコンビニを建てて採算が合うほどの商圏なのかは分からない。

こうした場所は、全国にたくさんあるはずです。

公園。

観光地。

公共施設。

人口の少ない地域。

期間限定で人が集まる場所。

ニーズはある。

けれど、従来型の店舗では出店のハードルが高い。

そんな場所です。

従来なら、出店候補から外れていたかもしれません。

しかし、出店コストを3分の1にできるなら、話が変わります。

出店までの期間を10か月から2か月にできるなら、さらに可能性は広がります。

つまりローソンが変えようとしているのは、店舗の形だけではありません。

「出店できる場所」の定義そのものを広げようとしているのです。


「全部入り」をやめる

もう一つ面白いところがあります。

今回の店舗には、通常のローソンにあるすべての機能が備わっているわけではありません。

約500品目を扱いますが、

ATMはありません。

コピー機もありません。

Loppiもありません。

営業時間も10時から17時を予定しており、施設休館日は休業します。

「コンビニは24時間営業」

「コンビニにはATMがある」

「コンビニには何でもある」

というイメージからすると、かなり違います。

しかし、ここには重要な考え方があります。

必要なものだけを残す。

公園を利用する人が、

飲み物を買いたい。

おにぎりを買いたい。

お弁当を買いたい。

ちょっとした日用品が欲しい。

その需要に応えることを優先する。

最初から100点満点の店舗をつくらない。

これは決して「サービスを減らした」というだけの話ではありません。

その場所に必要な機能を選び直した

と見ることもできます。


まず「小さく始める」

ここからは、一般的な経営にも通じる話です。

新しい事業を始めるとき、私たちはつい完成形をつくろうとします。

店舗なら、立派な店舗をつくる。

サービスなら、すべての機能を揃える。

商品なら、完璧なものを完成させてから発売する。

しかし、最初の段階では一つ分からないことがあります。

本当に需要があるのか。

どれだけ綿密に市場調査をしても、最後は実際にやってみなければ分からないことがあります。

そこで最初から大きなお金を使ってしまえば、判断を間違えたときの損失も大きくなります。

今回のローソンS海老名運動公園店も、永久にそこにあることが決まっているわけではありません。

営業予定は2027年3月31日まで。

その間に、事業性や運営面を検証します。

つまり、

まず小さく出店して、実際の需要を見る。

うまくいけば次へ進む。

改善点があれば直す。

想定した需要がなければ、別の判断をする。

大きな会社の取り組みですが、考え方そのものは非常にシンプルです。

「最初から大きく賭けない」。

これは、規模にかかわらず使える経営の考え方です。


「動かせること」も戦略になる

そして、トレーラーハウスにはもう一つ大きな特徴があります。

動かせることです。

今回の店舗は車両として扱われます。

つまり必要に応じて、店舗そのものを別の場所へ移動させることができます。

これは「出店」という考え方を大きく変えます。

通常の店舗では、建物をつくれば簡単には動かせません。

だから出店する前に、

「ここで本当に大丈夫だろうか」

と慎重になります。

当然です。

多額の投資をしてしまえば、簡単には撤退できないからです。

しかし、店舗を動かせるならどうでしょう。

需要が変わった。

周辺環境が変わった。

別の場所にもっと大きな需要が生まれた。

そんなとき、

「店の場所を変える」

という選択肢が生まれます。

経営では「どう成功するか」に目が向きがちです。

しかし、

「もし違ったとき、どうやって戻れるか」

まで考えておくことも重要です。

変更しやすい。

場所を変えやすい。

次の選択肢を持ちやすい。

それは弱さではなく、

変化に対応するための強さ

なのかもしれません。


災害時には「店が必要な場所へ行く」

さらに、店舗を動かせることには別の可能性もあります。

ローソンは、大規模災害などが発生した際、このトレーラーハウス型店舗を被災地へ移動させ、ライフライン機能の一端を担うことも検討しています。

通常、店舗は「お客様が来る場所」です。

しかし、動かせる店舗なら、

「必要としている人のところへ、店の方から行く」

ことができます。

飲料。

食品。

日用品。

災害時に必要となるものを販売するコンビニだからこそ、店舗そのものが移動できる意味は大きくなります。

「動かせる」という特徴が、

コスト削減だけではなく、

社会インフラとしての可能性

にもつながっているのです。


「店を建てる」は、本当に必要だったのか

今回のローソンの取り組みで興味深いのは、

新しい商品を開発したわけでも、

画期的な決済システムをつくったわけでもないことです。

問い直したのは、

「コンビニを出店するなら、店舗を建てなければならない」

という前提でした。

建てるのに時間がかかる。

建てるのにお金がかかる。

一度建てれば簡単には動かせない。

それなら、

そもそも建てなければいい。

もちろん、すべてのコンビニがトレーラーハウスになればいいわけではありません。

通常店舗だからこそ提供できる商品やサービスもあります。

大きな商圏では、従来型店舗の方が合理的でしょう。

大切なのは、

「今までそうしてきたから」という理由だけで、方法を固定しないこと。

その場所に必要なものは何か。

どれくらいの需要があるのか。

どれくらい投資すべきなのか。

それに合わせて「店の形」まで変える。

ここに、今回のローソンから学べる戦略があります。


大きく成功する前に、小さく失敗できるようにする

新しいことに挑戦するとき、

「どうすれば成功するか」

を考えることは大切です。

しかし、それと同じくらい、

「どうすれば小さく失敗できるか」

を考えることも重要です。

1000万円を投資する前に、100万円で試せないか。

1年かけて完成させる前に、1か月で試せないか。

すべての機能を揃える前に、一番必要な機能だけで始められないか。

全国展開する前に、一つの地域で試せないか。

失敗を完全になくすことはできません。

ならば、

失敗したときの損失を小さくする。

そうすれば、挑戦できる回数は増えます。

今回のローソンの店舗は、小さなトレーラーハウスです。

しかし、その背景には、

「小さく始めることで、これまで出店できなかった場所へ挑戦する」

という、とても大きな発想があります。

「ここには店を出せない」

そう思ったとき、本当に出せないのでしょうか。

もしかすると、

「今までと同じ店を出そうとしているから、出せない」

だけなのかもしれません。

「店を建てる」から、

「店を運ぶ」へ。

ローソンが動かしたのは、トレーラーハウスだけではありません。

「コンビニとは、こういうものだ」という当たり前も、少し動かしたのかもしれません。

では、私たちの仕事ではどうでしょうか。

「今までこうしてきた」という理由だけで、動かせなくなっているものはないでしょうか。

そこを少し動かしてみると、

今まで見えなかった市場が見えてくるかもしれません。

以上

「一流の思考ラボ」編集長でした。


参考・出典

・ローソン|ローソン初のトレーラーハウス型店舗「ローソンS海老名運動公園店」オープン

・TBS NEWS DIG|ローソン初「トレーラーハウス型店舗」 出店コストは通常店舗の約3分の1

・ITmedia ビジネスオンライン|ローソン初の「トレーラーハウス店舗」誕生、狙いは?


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