「最新の船」と聞いて、どんな姿を想像するでしょうか。
AIが航路を判断する船。
新しいエネルギーで動く船。
そんな未来的な姿を思い浮かべるかもしれません。
ところが今、最新の船に、
「帆」
が載ろうとしています。
帆といえば、何百年も前から船を動かしてきたもの。
なぜ今になって、そんな昔ながらのものが再び注目されているのでしょうか。
このニュースを見ていると、
「古いものから、別の新しいものを生み出す」
という面白さが見えてきます。
世界初「帆」を載せたLNG運搬船
2026年9月10日、商船三井は新しいLNG運搬船を「FUJIN SAILOR(フージンセイラー)」と命名しました。
*LNG運搬船とは、LNG(天然ガスを冷やして液体にしたもの)を運ぶ船のことです。天然ガスをなぜLNGにするかというと、気体のまま運ぶよりも体積を大幅に小さくできるので、効率よく大量の天然ガスを船で運ぶことができるからです。
そして今回の船が注目された理由の一つが、
大きな「帆」を2基搭載していること。
その名も「ウインドチャレンジャー」です。
もちろん、昔の帆船についていた布の帆を、そのまま取り付けたわけではありません。
硬い帆が風を受け、その力を船の推進に利用する仕組みです。
簡単にいえば、
エンジンだけに頑張ってもらうのではなく、使える風にも手伝ってもらう。
そんな仕組みです。
商船三井によると、「FUJIN SAILOR」は風力補助推進装置を搭載する世界初のLNG運搬船です。
ウインドチャレンジャーを2基搭載することで、燃料消費量や温室効果ガス排出量のさらなる削減が期待されています。
なぜ今になって「風」なのか
人類は、はるか昔から風の力で船を動かしてきました。
その後、蒸気機関やディーゼルエンジンなどが登場し、大型船ではエンジンによる航行が当たり前になっていきます。
そう考えると、「帆」は一度、主役の座を降りた技術ともいえます。
しかし今、船の燃料消費や環境負荷をどう減らすかが、大きな課題になっています。
そこで改めて注目されたのが、
ずっと昔から存在していた「風」
でした。
もちろん、昔の帆船に戻ったわけではありません。
現代の技術によって、帆そのものも進化しています。
でも、その出発点にある、
「風の力で船を動かす」
という考え方は、とても古いものです。
一度は主役ではなくなったものが、時代が変わることで、別の形で再び新しくなる。
ここが、このニュースの面白いところだと思います。
古着も「昔の服」で終わらない
身近なところにも、似たようなことがあります。
たとえば、古着です。
以前なら、
「誰かが着た古い服」
という見方が強かったかもしれません。
ところが今では、古着だからこそのデザインや風合いを楽しみ、あえて探して買う人もいます。
さらに面白いのが、リメイクです。
丈を変える。
別の生地を組み合わせる。
バッグなど、まったく違うものへ作り変える。
すると、
「古くなった服」が、今まで存在しなかったものに変わります。
ここで大切なのは、単に昔のものが復活しているわけではないことです。
昔の服を、昔と同じように着る。
昔の帆を、昔と同じ船につける。
それだけではありません。
一度「古い」とされたものから、当時とは違う「新しい」が生まれている。
私は、そこが面白いと思います。
「古い」と呼べるのは、今も知っているから
そもそも、少し不思議です。
私たちは何かを見て、
「これは古い」
と言います。
でも、「古い」と分かるということは、その存在が今の時代にも知られているということでもあります。
そして多くの場合、その「古いもの」にも、
かつて新しかった時代があります。
誰かが考えた。
誰かが使った。
世の中に広まった。
流行したものもあるでしょう。
つまり、「古いもの」の中には、かつて人々に選ばれた理由が残っているはずです。
だから、
古い=価値がない
とは限りません。
むしろ、
「なぜ、これは当時広まったのだろう?」
と考えてみる。
そこに、次の新しいものを考える材料が隠れているのかもしれません。
「古い」の先は、一つではない
技術は、一直線に進んでいるように見えます。
古いものがあり、それより便利な新しいものが生まれ、さらに新しいものへ進んでいく。
でも、本当に一本道なのでしょうか。
たとえば「帆」。
帆船の時代が終わったあと、その先にエンジンで走る大型船が生まれました。
それが一つの「新しい」でした。
しかし今、同じ帆をもう一度見直したことで、
昔とは違う、もう一つの「新しい船」
が生まれようとしています。
つまり、一つの「古い」から生まれる未来は、一つではありません。
その時代の技術。
その時代の課題。
その時代の価値観。
それらが変われば、同じものを見ても、以前とは違う答えを出すことができます。
古着から、新しいファッションが生まれるように。
昔からある風の力から、新しい船が生まれるように。
「古い」の中に、まだ見ぬ「新しい」が眠っている
新しいものを生み出そうとすると、私たちはつい、
「まだ誰も考えたことのないものを考えなければ」
と思ってしまいます。
でも、新しいものは、必ずしもゼロから生み出す必要はないのかもしれません。
昔使われていたもの。
一度流行したもの。
新しいものに置き換えられ、使われなくなったもの。
そんな「古いもの」を、今の時代からもう一度見てみる。
そして、
「なぜ、これは昔使われていたのだろう?」
「今なら、どんな使い方ができるだろう?」
と考えてみる。
かつて多くの人に使われていたものには、使われていた理由があります。
その理由をもう一度見つめ直し、今の技術や今の時代に当てはめてみることで、当時とはまったく違うものが生まれる可能性があります。
最新のLNG運搬船に立つ、大きな「帆」。
それは昔へ戻るための帆ではありません。
まだ誰も見たことのない未来へ進むための帆です。
「古い」は、終わったものではない。
まだ誰も見たことのない「新しい」をつくり出すための、貴重なアイデアの素になるかもしれません。
以上
「一流の思考ラボ」編集長でした。
