「ここまでやったから、やめられない」が一番危ない|やめどきの考え方

「ここまで続けたんだから、今さらやめられない」

そう思ったことはないでしょうか。

30分並んだ行列。

半分まで読んだ本。

何年も続けてきた習い事。

時間とお金をかけてきた仕事や事業。

本当はもうやめたい。

このまま続けても、あまり良くならない気がする。

それでも、

「ここまでやったのにもったいない」

と思うと、なかなかやめられません。

でも、もしかすると私たちは、

「これからどうなるか」ではなく、「これまで何を使ったか」で未来を決めてしまっている

のかもしれません。


30分並んだ行列から抜けられますか?

たとえば、人気のお店に入るために行列に並んでいたとします。

すでに30分待ちました。

ところが店員さんから、

「ここから、あと1時間ほどかかります」

と言われました。

皆様なら、どうするでしょうか。

本当なら、

「この店に入るために、ここからさらに1時間待つ価値があるか」

で判断すればいいはずです。

ところが、

「もう30分も並んだし……」

と考えてしまう。

でも、ここで列を抜けても、さらに1時間待っても、すでに使った30分は戻ってきません。

それなのに、

「もう30分も待ったのだから、ここでやめるのはもったいない」

と、すでに使った時間に引っ張られて、これからの判断まで変わってしまう。

実は、こうした心理には名前があります。


サンクコスト効果とは?

こうした判断と関係するのが、

「サンクコスト効果」

と呼ばれるものです。

サンクコストとは、簡単にいえば、

すでに使ってしまい、取り戻すことのできないお金や時間、労力

のことです。

そして、そうした過去の投資を「もったいない」と感じることで、これからの判断まで影響を受けてしまうことを「サンクコスト効果」といいます。

たとえば、3,000円で映画のチケットを買ったとします。

映画が始まって30分。

どうしても面白くありません。

それでも、

「3,000円払ったんだから最後まで見ないともったいない」

と思ってしまう。

でも、その3,000円は途中で映画館を出ても、最後まで見ても戻ってきません。

本来考えるべきなのは、

「3,000円を払ったから見るべきか」ではなく、
「ここから残りの時間を、この映画に使いたいか」

です。

頭では分かっていても、実際にやるのは意外と難しいものです。


「もったいない」は、ときどき未来まで奪う

もちろん、物やお金を大切にする「もったいない」という感覚は、とても大切です。

しかし、判断するときには注意が必要です。

1年間続けたから。

100万円使ったから。

ここまで頑張ったから。

たくさん我慢したから。

そう考えて続けているうちに、

さらに時間を使う。

さらにお金を使う。

さらに我慢する。

すると今度は、

「これだけ追加で使ったのだから、ますますやめられない」

となってしまいます。

過去を惜しむあまり、未来までそこへ差し出してしまう。

これが、「ここまでやったから、やめられない」の怖いところです。


だからといって、すぐにやめればいいわけではない

ここで、一つ注意したいことがあります。

この記事で伝えたいのは、

「うまくいかなければ、すぐにやめよう」

ということではありません。

続けることでしか得られないものもあります。

勉強。

スポーツ。

仕事。

新しい挑戦。

始めてすぐに結果が出ないからといってやめていたら、何も身につかないでしょう。

大切なのは、

「続けてきたから続ける」のか、
「これからも続ける価値があるから続ける」のか。

この二つを分けて考えることです。

同じ「続ける」という決断でも、理由はまったく違います。


「ここまで」ではなく「ここから」で考える

では、続けるか、やめるか迷ったとき、どう考えればいいのでしょうか。

そんなときは、一度、

「これまで使った時間やお金がゼロだったとしても、私は今これを選ぶだろうか?」

と考えてみるのも一つの方法です。

たとえば、

「今日初めてこの本を手に取ったとして、残りを読みたいだろうか」

「今日初めてこの仕事を選べるとして、それでもやりたいだろうか」

「今日初めてこの計画を提案されたとして、それでもお金を出すだろうか」

過去をいったん横に置くと、判断が少し変わるかもしれません。

見るべきなのは、

「ここまで何を使ったか」ではなく、
「ここから何を使い、何を得られるか」。

過去は変えられません。

でも、これから使う時間やお金は、まだ選ぶことができます。


やめることは、過去を否定することではない

それでも、長く続けてきたものをやめるのは勇気がいります。

「今までの努力は何だったんだろう」

そう思うこともあるでしょう。

でも、やめたからといって、それまでの時間がすべて無駄になるわけではありません。

失敗した経験。

身につけた知識。

出会った人。

自分に向いていること、向いていないこと。

そこで得たものまで消えるわけではありません。

むしろ、

「ここまでやったからこそ、やめると判断できた」

ということもあります。

続けることだけが、努力を大切にする方法ではありません。


「やめどき」は、未来から考える

私たちは、何かを始めるときには未来を見ます。

「これをやったら、どうなるだろう」

「こんな自分になりたい」

「この事業を成功させたい」

ところが、やめるかどうかを考えるときには、なぜか過去を見てしまいます。

「ここまでやったから」

「これだけ使ったから」

「今さらやめたらもったいないから」

でも、本当はやめどきを考えるときこそ、未来を見る必要があるのかもしれません。

「ここまで」を理由にするのではなく、
「ここから」に価値があるかを考える。

そして、

続ける価値があるなら、続ける。

方向を変えた方がいいなら、変える。

やめた方がいいなら、やめる。

過去に使った時間やお金は取り戻せません。

だからこそ、これから使う時間まで、過去だけを理由に決めなくてもいい。

やめることは、過去を無駄にすることではありません。

これ以上、未来を無駄にしないための決断になることもあります。

もし今、

「ここまでやったから、やめられない」

と思っていることがあるなら、一度だけ問いかけてみてはいかがでしょうか。

「ここから先も、本当に続ける価値があるだろうか?」

その答えが、「やめどき」を教えてくれるかもしれません。

以上

「一流の思考ラボ」編集長でした。


参考・出典

・Roth, S., Robbert, T. & Straus, L.「On the sunk-cost effect in economic decision-making: a meta-analytic review」


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