ドラえもんの「ひみつ道具」が教えてくれる、一流の経営判断|未来を読む思考法

「もし、どこでもドアが本当にあったら?」

子どもの頃、一度はそんなことを考えたことがあるのではないでしょうか。

東京から大阪へ一瞬で移動できる。

海外旅行にも飛行機はいらない。

毎朝、満員電車に揺られる必要もありません。

「そんなものがあったら便利だな」

普通なら、そこで終わります。

でも、もう少しだけ想像を続けてみます。

もし、どこでもドアが誰でも使えるほど普及したら、飛行機を利用する人はどうなるでしょうか。

新幹線は?

駅の近くに住む必要はあるでしょうか。

旅行先でホテルに泊まる人も減るかもしれません。

東京で働きながら、北海道や沖縄に住むことだってできるかもしれない。

物流の仕組みも大きく変わります。

考えてみると、どこでもドアが変えるのは、

「移動時間」だけではありません。

人が住む場所。

働く場所。

旅行の仕方。

そして、これまで必要だった仕事や産業まで変えてしまう可能性があります。

一つの技術が生まれる。

すると、人の行動が変わる。

人の行動が変われば、必要とされる商品やサービスも変わる。

そして企業には、

「その変化に対して、自分たちはどうするのか」

という判断が求められます。

ドラえもんの「ひみつ道具」は、そんな未来の経営判断を考える面白い題材でもあります。


「便利になる」で終わらせない

新しい商品やサービスが登場したとき、

「便利そう」

「売れそう」

「流行りそう」

と考えることは、それほど難しくありません。

でも、経営の視点で面白いのは、その先です。

たとえば、どこでもドアなら、

何ができるようになる?

まず「一瞬で移動できる」。

では、

それによって、誰の行動が変わる?

通勤する人。

旅行する人。

荷物を運ぶ人。

遠距離に住む家族。

さらに、

その結果、新しく必要になるものは?

逆に、

今まで必要だったけれど、いらなくなるものは?

そして最後に、

その変化に対して、自分たちは何をする?

ここまで考えてみます。

未来を眺めるだけなら、最後の問いは必要ありません。

でも経営では、変化を予想して終わることはできません。

何を始めるのか。

何をやめるのか。

何を変えるのか。

そこまで考えて、初めて「判断」になります。

タケコプターがあったら、保険会社が忙しくなる?

では、別の「ひみつ道具」でも考えてみましょう。

タケコプターです。

もし本当に、誰もが自由に空を飛べるようになったら。

「移動が楽になる」

だけでは終わりません。

人が空を飛ぶようになれば、事故が起きるかもしれない。

すると、

「タケコプター保険」

のような商品が必要になる可能性があります。

「どこを飛んでもいいのか」という問題も出てきます。

道路に信号や交通ルールがあるように、空にも個人向けの飛行ルートや交通ルールが必要になるかもしれません。

住宅の上を自由に飛べるなら、プライバシーの問題もあります。

空から家の中を見られないようにする、新しい住宅設備が生まれるかもしれない。

もっと軽い素材。

長時間飛べるバッテリー。

空中交通を管理するシステム。

修理や点検を専門にする会社。

一つの道具が普及するだけで、その周囲にはいくつもの新しい仕事が見えてきます。

そして面白いのは、

タケコプターを作る会社だけがビジネスチャンスを得るわけではない

ということです。

保険会社なら、新しいリスクに対応する商品を考える。

住宅会社なら、上空からの視線を前提とした家を考える。

素材メーカーなら、より軽くて丈夫な素材を考える。

同じ未来でも、立場が変われば見えるものは変わります。

新しい技術を見たとき、

「自分たちなら、この変化に対して何ができるだろう?」

と考えてみる。

そこから、新しい可能性が見えてくるかもしれません。

新しいものが生まれると、「価値が下がるもの」もある

ただし、新しい技術が生み出すのは、新しい市場だけではありません。

それまで価値があったものの価値を下げることもあります。

ドラえもんの「アンキパン」で考えてみます。

教科書やノートの内容をパンに写して食べれば、その内容を覚えられる。

もし誰でも簡単に知識を覚えられるようになったら、

「たくさんのことを覚えている」

という能力の価値は、今より下がるかもしれません。

すると大切になるのは、

何を知っているかではなく、

知っていることをどう使うか。

どんな問いを立てるか。

どんな判断をするか。

ということかもしれません。

これは、空想の世界だけの話でもありません。

AIが文章を作り、情報を整理し、必要な情報を探してくれるようになったことで、

「文章を書く」

「情報を集める」

「資料をまとめる」

といった仕事の一部は、以前とは違う意味を持ち始めています。

だから、

「AIで何ができるようになるのか」

だけを見るのではなく、

「AIが当たり前になったら、何の価値が上がり、何の価値が下がるのか」

まで考えてみる。

もし、自分たちが提供している価値が下がるとしたら、

「そのとき、自分たちは何を提供する会社になるのか」

まで考える。

新しい技術への対応とは、単にその技術を導入することだけではないのかもしれません。

未来の経営判断につながる「5つの問い」

ここまでの話をまとめると、新しい技術やサービスを見たときに考えたいことは、5つです。

① 何ができるようになる?

② 誰の行動が変わる?

③ 新しく必要になるものは?

④ 逆に、いらなくなるものは?

そして、

⑤ その変化に対して、自分たちは何をする?

未来を正確に当てる必要はありません。

大切なのは、一つの変化を見て終わらず、

「その次は?」

と考えてみることです。

そして⑤まで進めば、未来予測が、

「自分たちはどうするのか」という経営判断に変わります。

どこでもドアができたら、航空会社はどうする?

ここで、最初の「どこでもドア」に戻ってみましょう。

もし本当に、どこでもドアが普及したら。

「飛行機を利用する人が減るかもしれない」

と考えるところまでは、未来予測です。

でも、航空会社を経営しているとしたら、そこで終わることはできません。

移動時間の短さでは絶対に勝てない世界で、航空会社は何を提供するのか。

ホテル会社なら、

泊まる必要がなくなった世界で、それでも泊まりたくなる価値とは何か。

不動産会社なら、

駅からの距離が住宅の価値を決めなくなったら、人は何を基準に家を選ぶのか。

物流会社なら、

「運ぶ」という仕事そのものが変わったとき、自社には何が残るのか。

答えは分かりません。

そもそも、どこでもドアはありません。

でも、この問いを考えることには意味があります。

現実の経営でも、

AI。

自動運転。

ロボット。

新しいエネルギー。

新しい働き方。

さまざまな変化によって、昨日まで当たり前だった前提が変わる可能性があるからです。

そのとき、

「この技術をどう使うか」だけではなく、「この技術によって自分たちの前提が崩れたら、どうするか」まで考えておく。

ドラえもんの世界で遊んでいるように見えて、実はかなり経営に近い思考実験なのかもしれません。

この考え方のきっかけになった一冊

今回の記事を書くきっかけになったのが、藤野英人さんの『もしドラえもんの「ひみつ道具」が実現したら』という本です。

タケコプターやアンキパン、どこでもドアなど、誰もが一度は聞いたことのある「ひみつ道具」を題材に、

「もし本当に実現したら、経済や社会はどう変わるのか?」

を考えていきます。

面白いのは、ひみつ道具そのものの仕組みを考えるのではなく、

「それが存在する社会」を考えていくところです。

難しい経済の話から入るのではなく、ドラえもんという身近な題材だからこそ、

「じゃあ、その次は?」

と想像を広げていくことができます。

未来を当てるより、「その次」を考える

未来を読むというと、

「次に何が流行るのか」

「どの業界が伸びるのか」

を当てることのように感じます。

でも、未来はそう簡単には当たりません。

だからこそ、新しい技術やサービスを見たときに、

「もし、これが当たり前になったら?」

と、その先を考えてみる。

そして、もう一歩進んで、

「そのとき、自分たちはどうする?」

と考えてみる。

未来を予想するだけなら、空想で終わります。

でも、そこから、

何を始めるのか。

何をやめるのか。

何を守るのか。

何を変えるのか。

自分たちの行動を選ぶところまで進めば、それは経営の「判断」になります。

どこでもドアはなくても、

未来の経営判断を考える練習なら、今日からできるのかもしれません。

以上
「一流の思考ラボ」編集長でした。


参考資料・出典

・小学館「不朽の名作『ドラえもん』電子配信スタート!」

・川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム「企画展」

・CEメディアハウス「『もしドラえもんの「ひみつ道具」が実現したら タケコプターで読み解く経済入門』藤野英人 著」


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