トヨタ自動車。
そう聞いて、多くの人が最初に思い浮かべるのは「自動車」ではないでしょうか。
では、こんな想像をしてみてください。
もし、トヨタ自動車の創業者・豊田喜一郎さんが2026年の日本に生きていて、今から起業するとしたら。
彼は、何をつくるのでしょうか。
やはり、自動車でしょうか。
EVでしょうか。
それとも、AIでしょうか。
ロボットでしょうか。
もしかすると、そのどれでもないかもしれません。
今回考えてみたいのは、
「豊田喜一郎さんは、2026年でも自動車をつくっただろうか?」
という問いです。
もちろん、本人に答えを聞くことはできません。
しかし、豊田喜一郎さんが実際に何を見て、何を考え、何を選んだのか。
そこから逆算していくと、2026年の豊田喜一郎さんが選びそうな「事業」が少しずつ見えてきます。
そしてそこには、今を生きる私たちの仕事にも通じる、ある重要なヒントがあります。
豊田喜一郎さんは、最初から「自動車の人」だったわけではない
ここで、史実を少しだけ振り返ってみましょう。
豊田家の事業の原点は、自動車ではありません。
「織機」です。
豊田喜一郎さんの父・豊田佐吉さんは、自動織機の発明で知られる人物でした。
そのため喜一郎さんが、
「豊田家は織機の会社なのだから、もっと優れた織機をつくろう」
と考えても、何も不思議ではありません。
しかし、彼はそこにとどまりませんでした。
1920年代、欧米を訪れた喜一郎さんは、急速に広がっていく自動車社会を目にします。
そして日本にも自動車の時代が来ると考え、まだ国産自動車産業が十分に育っていなかった時代に、自動車づくりへ踏み出していきました。
ここで注目したいのは、
喜一郎さんが、自動車を好きだったかどうかではありません。
もっと重要なのは、
「今ある産業」ではなく、「これから必要になる産業」を見ていた
ということではないでしょうか。
では、2026年の豊田喜一郎さんは何を見るのか
ここからは、「一流の思考ラボ」編集長の仮説です。
2026年。
もし豊田喜一郎さんが今の日本にいて、ゼロから会社を立ち上げるとします。
彼が1920年代と同じように、
「これから社会はどう変わるのか」
という目で世界を見たら、何が見えるでしょうか。
生成AIは、急速に仕事へ入り始めています。
人手不足は、多くの産業で深刻になっています。
自動運転の研究が進み、ロボットが現実の世界で働き始めています。
高齢化が進み、移動や介護の問題も大きくなっています。
エネルギーのあり方も変わろうとしています。
そして家、自動車、仕事、買い物といった、これまで別々だったものが、データやAIによって少しずつつながり始めています。
もし喜一郎さんがこれを見たら、
「AIの会社をつくろう」
と考えるでしょうか。
私は、少し違うのではないかと思います。
「AIをつくる会社」ではなく、「AIで暮らしを変える会社」
豊田喜一郎さんが自動車事業へ進んだ時代、自動車は単なる新商品ではありませんでした。
人が移動できる距離を変え、物流を変え、街を変え、やがて人々の暮らしそのものを変えていきました。
だとすれば、2026年の喜一郎さんが探すものも、
「次に売れる商品」ではなく、「次に人々の暮らしを変えるもの」
なのではないでしょうか。
たとえば、
AI。
ロボット。
自動運転。
住宅。
エネルギー。
これらを一つずつ売るのではなく、組み合わせる。
朝起きれば、AIがその日の予定と体調を把握する。
必要なことはロボットが支える。
移動したければ、自動運転のモビリティがやって来る。
家は電気を使うだけでなく、自らエネルギーをつくり、蓄える。
高齢になって車を運転できなくなっても、移動の自由を失わない。
そんな「暮らしの仕組み」そのものをつくる会社です。
つまり2026年の豊田喜一郎さんは、
自動車会社ではなく、「未来の暮らしをつくる会社」を起業するのではないか。
これが、今回の一つの仮説です。
実は、現在のトヨタも「自動車」の外へ広がっている
興味深いことに、この想像は現在のトヨタとまったく無関係でもありません。
トヨタは現在、自らを単なる自動車会社ではなく「モビリティカンパニー」へ変えようとしています。
そして静岡県裾野市では「Toyota Woven City」という街までつくっています。
そこでは、自動車だけでなく、AI、ロボット、ソフトウェア、エネルギーなどを組み合わせながら、「未来の当たり前」を生み出すための実証が進められています。
さらにトヨタは、住宅事業も長年続けています。
その源流として掲げられているのも、豊田喜一郎さんの「日本の住まいをよくしたい」という思いです。
こうして見ると、少し不思議です。
織機から始まり、自動車をつくり、住宅をつくり、そして今では「街」までつくっている。
一見すると、まったく違う事業です。
しかし、
「人々の暮らしを、技術でもっと良くする」
という視点から見ると、一本の線でつながっているようにも見えます。
「何をつくる会社か」を決めすぎてはいけない
ここからが、私たちにとって一番重要なところです。
会社を長く続けていると、
「うちは○○をつくる会社だ」
という意識が強くなります。
自動車会社だから、自動車をつくる。
住宅会社だから、住宅をつくる。
飲食店だから、料理を提供する。
もちろん、それ自体が間違っているわけではありません。
しかし、もし豊田喜一郎さんが、
「豊田家は織機の会社なのだから、織機をつくり続ける」
と考えていたら、現在のトヨタは存在していなかったかもしれません。
だから、ときどき問い直してみる必要があります。
自分たちは、「何を売っている会社」なのか。
ではなく、
自分たちは、「何を良くするために存在している会社」なのか。
もし、あなたが2026年に自分の会社を起業するとしたら?
最後に、一つだけ考えてみてください。
今の会社も、商品も、設備も、取引先も、すべて一度なくなったとします。
そして2026年。
あなたが今日、ゼロから同じ会社を起業するとしたら。
本当に、今と同じ商品をつくるでしょうか。
同じサービスを提供するでしょうか。
それとも、会社をつくった本来の目的は残しながら、まったく違う方法を選ぶでしょうか。
時代を見て、
次に必要になるものを考え、
まだ当たり前になっていないものへ踏み出す。
豊田喜一郎さんの歩みから考えると、
守るべきなのは、今の商品ではなく、その商品を生み出した「目的」なのかもしれません。
もし豊田喜一郎さんが2026年に起業するとしたら。
彼がつくるものが自動車なのか、AIなのか、それとも街なのか。
本当の答えは、誰にも分かりません。
ただ、一つだけ想像できることがあります。
きっと彼は、
「今、何が売れているか」ではなく、「これからの人々に、何が必要になるか」
を考えるところから始めるのではないでしょうか。
以上
「一流の思考ラボ」編集長でした。
参考資料・出典
・トヨタ自動車株式会社「モビリティのテストコースToyota Woven Cityで、本日実証を開始」
